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両校とも一敗で後が無いため、試合は白熱し続けている。この試合に勝ったほうが全国――インターハイが懸かっているだけあって接戦だ。
しかし、後半残り少しというところで寿がスタミナ切れで倒れてしまった。
寿の元へ駆け寄ろうと席を立とうとする私を、堀田くんが止める。
「ここは俺が行くよ。みっちゃんのことだ、名前ちゃんに格好悪い姿は見られたくないだろうから」
「堀田くん……」
「それに名前ちゃんが今日一番応援したいのは違う奴なんじゃないのか?」
きっと……寿から全部聞いてるんだね。
本当の意味で私たちが終わったことを。
去って行く堀田くんの背中に心の中でお礼を言ってから、もう一度席に座り直す。
流川くん……頑張れ!
あともう少しだよ!
何もできないならせめて応援しよう。
神頼みだって笑われたって祈ろう。
これくらいのことしか私にはできないから。
桜木くんの飛び抜けたリバウンド力、
逆転した小暮くんのスリーポイント、
ボールを持って一直線にゴールに突き進む流川くん――
「流川くん、いけ……!」
私はその日、初めて声を上げた。
それは周りの声援に掻き消されてしまったかもしれない。
でも、叫ばずにはいられなかった。
ドッカーンッ
「キャー!!!」
「すっげぇダンク!!!一年とは思えねぇ!!!」
「さすがエースの流川だ!!!」
湘北の勝利を決定づけた、流川くんのダンクが残り10秒で会場中に響き渡った。
ゴールリングはまだ音を鳴らして揺れている。
そして――ブザーが試合終了を告げた。
70-66
湘北は勝利した。
これで全国か。
インターハイに行くんだ……!
湘北高校始まって以来の功績に本人達だけでなく会場にいた誰もが歓声を上げていた。
その時、ベンチでメンバーと喜び合っていた流川くんと目が合った。
「(聞こえた)」
「(え?)」
「(アンタの声援)」
「(流川くん……)」
「(最後のダンクは、アンタのおかげ)」
コートで挨拶を済ませた両チームの選手は順々に控え室へと戻って行く。
あんな小さな声が届いて。
それが得点に繋がったなんて、そんな嬉しいことはない。
……今日は試合を見に来てよかったな。
会場を出ると、さっきまで同じ空気を味わっていた観客同士が興奮気味に語り合っている。
四方八方から流川くんの名前も聞こえてきた。
「……おい」
……え?
出口を出たところで不意に声をかけられる。
まさかと、と振り返れば、そのまさか、だ。
「試合、勝った」
「うん……おめでとう」
出口のところに寄りかかって腕を組んで立っている流川くん。
そんな彼の存在に気付き始めた周りもざわつき始める。
「ベストファイブも、すごいね」
「べつに」
「そんなすごい人がこんなところにいたら大騒ぎになっちゃうんじゃない?」
「どうでもいい」
「……流川くん、」
「そんなことはどうだっていいんだ」
……流川くんって、見れば見るほどかっこいいね。
バスケも上手いし。
試合の激しさを物語る汗のせいでより艶っぽい。
ねぇ、るか―― prev / next