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その日、部活が終わる時間まで一人で教室に残っていた。何をすることもなく窓の外をボーッと眺めているだけで時間っていうのはあっという間に過ぎるんだと知った。
……そろそろかな?
18時半を過ぎた頃、私は体育館へ向かった。
グラウンドを使っているサッカー部や野球部もちょうど整備や片付けに取り掛かっているところだった。
体育館に連れ、なんとなくドキドキと心臓が高鳴る。
……あ、まだボールの音する。
流川くん、まだいるかな……?
恐る恐る体育館のドアを開けて顔を覗かせる。
まだみんないたらやだしなぁ、と遠慮気味に中の様子を伺ってみる。が、もう部活は終わったらしく、誰も残ってはいなかった。
……一人を除いて。
「あ、いた」
フリースローラインからちょうどボールを投げようとしていた彼が私の声に気づいて振り返る。
「なにしてる」
「部活終わるの待ってた」
「……おれの?」
「他に誰がいるの?流川くんしかいないじゃん」
「……」
「自主練中だった?」
「ん」
「じゃあここで見て待ってるよ」
「送ってく」
「終わったら一緒に帰ろ。だからそれまで待ってる」
「……いいのか」
「うん。流川くんのプレー見てみたいし。あ、でも、こんな贅沢なことしてるのバレたら流川くんのファンの子達に怒られちゃうかな」
「アイツらは関係ない」
流川くんは再びゴールを向いて続きのボールを打っていく。
一定のリズムで打たれるボールはアーチを描くように次々とゴールに入る。
しなやかな身体は流れるように動き続けていて、素人の私ですら彼のプレーがどれだけすごいものなのかを肌で感じた。
さすが一年生エース。
赤木くんや寿、二年の宮城くんを抑えての湘北エースだもんね。
上手いに決まってる。
「日曜日、」
また入った。
いまので9本連続ゴール。
「来てほしいんだけど、試合」
「私に?」
「ん」
「……」
「この試合にインターハイがかかってる」
「……」
「アンタに一番近くで見てほしい」
10本目のゴールを決めた流川くんは私の前まで戻ってくると、視線を合わせてしゃがみ込んだ。
綺麗な瞳から目が離せずにいると、端正な顔立ちがゆっくりと近づいてくる。
そして……私はゆっくりと目を閉じて彼を感じた。
彼の汗が伝って来ても気にしない。
「……いいよ」
そうして日曜日、私はインターハイがかかった湘北の最終戦を観にいくことになった。 prev / next