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帰りのホームルームが終わって次々と生徒が帰っていく中、さっさと部活に向かうはずの寿が今日はまだ自席に座っている。いつもは張り切って教室を出ていくくせに、珍しい。
「名前、ちょっといいか?」
生徒が全員出て行ったのを見計らって寿が声をかけてくる。
うん、と頷けばまっすぐと私に身体を向けて座り直す。
「この前たまたま屋上に行ったら聞いちまったんだよ、お前と流川の会話」
この前ってまさか……告白された日?
でもなんで今更そんな前の話?
「俺さ、本当は少し別れたことを後悔してたんだ」
「……」
「バスケを理由に自分から振ったくせに情けねーんだけどよ。あの時は部活に戻ったことに精一杯で、あんまり名前のことを考える余裕がなかったんだ」
「……」
「でもこの前、お前が流川に俺のバスケしてる姿が好きって言っただろ?」
「……うん」
「それ聞いて、お前のこと諦めてまでバスケを選んだくせになに後悔してんだってアホらしくなった」
「……」
「もう後悔しねーから」
「……」
「だから、名前も後悔しない道を選べ」
……寿。
寿が後悔していたように、私にも後悔していた時期は少しあったんだよ。
でも……今更もう教えてあげない。
寿がバスケ一筋で頑張るって言うなら私はそれを応援するだけだ。
「流川のこと、好きなのか?」
「……どうだろ、わかんない」
「少なくとも流川のやつはお前のこと好きだぞ。わざわざ俺に言ってきやがった」
「……なにを?」
「お前のことが好きだとか告白したとか。でもお前が俺と付き合ってた時のことを理由に振ってきたから何とかしてくれ、ってな」
うわ… …まじですか。
流川くん、寿相手にやるなぁ。
変なところに思わず感心してしまう。
「私も今日アヤコちゃんと宮城くんに言われたよ」
「あ?」
「寿が部活中に集中力欠けてる上に、流川くんとギスギスしてるって」
「あー、まあ、いま言ったことをお前に伝えるべきか悩んでたからな」
「流川くんと喧嘩したの?」
「んなもん、ガキじゃねーんだからしねーよ!」
「そう……ならよかった」
昔の寿なら怒って手出してそうだけど。
……変わったってことだよね。
寿の言う通り、私も過去と現在を切り離して後悔しない道を選ばなきゃ。
胸に小さな決意を抱いたところで、寿は私の顔を見てニッと笑った。
「んじゃ、俺部活行くわ」
「ん、ありがと」
「おー」
ありがと……寿。
寿と付き合えてよかったよ。 prev / next