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「……なら、」「ん?」
「おれと付き合え」
「え?」
「好きだ」
「……」
「アンタのことが」
流川くんが、私を好き?
「……なんで私なの?」
「入学式ん時に初めて見てからずっとキレイだと思ってた」
「……」
「先輩のモトカノって知って、」
「……」
「いつの間にか益々気になってて、」
「……」
「気付いたら好きになってた」
こんなにすっげー好きに、と流川くんは大袈裟にいう。
やけにストレートな言葉が胸に染み込む。
「……アンタが体育館で話しかけて来た時、」
「……」
「……嬉しかった」
それはあの日、私が寿に届け物をするために体育館に出向いた日。
そこで初めて私は流川くんに出会った。
話したのも名前を知ったのもその時が初めてだったのに。
……流川くんは入学した時から見ててくれたってことなのかな?
「流川くんって案外饒舌なんだね」
「……」
「そんな風に想っててくれたって知れて、私も嬉しい」
「……」
「ありがとね」
うまい言葉が見つからなくて、こんなありきたりな言葉しか返せない自分が無力だ。
でも、彼が真剣だと感じるからこそ曖昧な返事ができないのだ。
そんな流川くんに素朴な疑問をぶつけてみた。
「流川くん、バスケ好き?」
私の質問にキョトンとした表情の後、彼は頷いた。
「だったら、バスケだけ選んだ方がいい」
「……」
「流川くんって……寿にちょっと似てるんだよね」
「……どういう意味だ」
「一心不乱にプレーしてる姿がどんな時よりも一番生き生きして輝いてるの。それを見てると、邪魔しちゃダメだって思わされる」
「……」
「付き合っても、きっと私は流川くんの邪魔になるよ」
「……」
「……私が寿にとってそうだったように」
なにも言わなかったけど、あの頃の寿はバスケだけに打ち込みたかったはず。
その証拠に私といる時もいつもバスケの話ばっかりで……私自身の入る隙間なんてどこにもなかった。
それをいつしか窮屈に感じて、最後は寿の方から全部を終わらせてくれた。
きっと……いま流川くんと付き合っても二の舞になるだけ。
だってバスケに対する彼の姿勢はあの頃の寿とよく似ているから。
だから私のはいる隙間なんて――
「勝手に決めんな」
「……」
「先輩とおれは違う」
「……」
「バスケとアンタも別モンだ」
「……」
「だからアンタもおれとバスケを別モンとして見ろ。総括的な視点から言い訳ばっかしねーで素直になれ」
流川くん……
……やっぱりこの子は不思議な子だな。 prev / next