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次の週の月曜日、教室に入るなり寿が嬉しそうに初戦突破の報告をしてくる。最初は危うかったらしいが、後半の流川くんの活躍が目立ったのおかげで勝てたんだとか。
まあ余裕だ、なんて寿は大口叩いてたけど。
とりあえず、おめでとうと返事をして席につく。
ほんと変わったなぁ、寿。
付き合ってた頃はこんなに楽しそうに自分から話しをしてくれたことなんてなかった気がする。
あの頃は……バスケ部の悪口ばっかりだったから。
髪を切って。
入れ歯も入れて。
何より心を入れ直して生き生きバスケをプレーしている彼を見れることが純粋に嬉しい。
朝のホームルームまでしばらくその場で話をしていると、クラスメイトの子が近づいてくる。
「苗字さん、呼んでるよ」
女の子に言われた方を見るとそこには――
「流川?何でアイツがうちのクラスにいるんだ?」
「……さぁ?」
「いつの間にそんなに仲良くなったんだよ」
「別にそういうわけじゃないけど……」
「じゃなきゃあの男がわざわざこんなところまで来たりしねーだろ」
……うん、まあ、そういうもんなのかな?
流川くんは気まぐれだからなんとも言えないけど。
ジッと目が合ったままでいると、彼は手招きをする。
どうやら私にこっちに来いと言っているらしい。
「おら、呼んでんぞ」
「……」
「さっさと行け」
寿には半ば強引に教室を追い出されるわ。
流川くんには半ば強引に教室から連れ出されるわ。
この男達による私の意思なんてものはガン無視だ。
そうして連れて来られたのは、なんとなく予想していた屋上、の更に奥の塔屋。
胡座をかいて座る彼に促されてその横に私も腰を下ろす。
「ホームルーム始まっちゃうよ」
「……」
「まさか朝からサボるつもり?」
「……」
「ねぇ、流川く――」
……ん。
流川くん、と名前を呼ぼうとしたのに……させてもらえなかった。
だって、彼の唇が私の唇を覆ってどんな言葉も飲み込んでしまったから。
少しぎこちないキスだった。
あまりにも勢いよく迫ってきたせいでお互いの前歯がコツンとぶつかり合う。
一瞬のキスから伝わってくるのは彼の不器用さ。
「試合、勝った」
「みたいだね」
「だから約束のやつ」
「……私、約束してないよ」
「……」
「流川くんが勝手に決めただけでしょ?」
「……」
「……」
「……いいんだよ」
なにがいいのかはよく分からない。
聞き返したかったけど、その隙を彼は与えてくれなかった。
今度は歯はぶつからなかった。
さっきよりも少し長いキス。
触れた唇から伝わってくる流川くんの温もり。
「流川くん、キスするの初めて?」
「……なんで」
「なんとなく」
「……だったらなに」
ほら、そうやってムキになるところとか。
図星をつかれた子供みたい。
「アンタのその余裕な顔……むかつく」 prev / next