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「……なぁ、」「ん?」
「今週の土曜日なにしてんだ」
「なにって……ああ、もしかして県予選?」
「……」
「一回戦の三浦台との試合があるって寿が言ってたけどそのこと?」
「……むっ」
ああ、まただ。
あのワンオンワンの試合以来、私が寿の話をすると流川くんはあんまり面白くないらしい。
自分で妬いてるって認めてたくらいだしね。
「違った?」
「……ふん」
「で、土曜日がなに?」
「……見に来るのか」
「残念、その日は先約があるので行けないの」
「ふーん」
「でも頑張ってね」
「……うす」
流川くんは私を抱き締めたまま肩に顔を埋めてスリスリしてくる。
くすぐったくて身をよじってみても、彼の腕ががっちりと身体に巻きついているせいで思うように身動きが取れない。
「……いい匂いがする」
「私?」
「ん」
「なんだろ、シャンプーかな?」
「たぶん」
特別高級なシャンプーってわけでもないけどね。
どうやら気に入ったようでクンクンと鼻を利かせているみたい。
そんな風にちょっと油断していると、彼は突拍子もないことを言い始める。
「……キスしてー」
「……は?」
「キスしたい」
「……頭大丈夫?」
「……」
なに急に、キスしたいって。
付き合ってるわけでもないのにビックリしたじゃない!
「……先輩とはしたくせに」
「寿とは付き合ってたから」
「じゃあおれも付き合う」
「……」
「だから、キス」
この子はなんということを。
キスしたい、だから付き合うって……!
そもそも膝枕とかこうやって抱き締めてるのもおかしいんだけどね。
流川くんの常識に私の常識は全く通用しないらしい。
「そういうことじゃない。付き合うっていうのは好きな人同士がするの」
「おれは好きだけど」
「え?」
「前にも好きって言った」
「あれ本気だったの?」
「誰もうそだなんて言ってない」
「それは、そうだけど……」
確実に流川くんのこと侮ってた。
抜けてそうに見えて一応いろいろと覚えてるんだね。
「今がダメなら、試合に勝ったら」
「……」
「土曜日勝ったらスる」
「……」
「……がんばろ」
……うっそぉ。 prev / next