▼ キス
お昼休み、私は屋上へとやってきていた。屋上の中にある、塔屋が私のお気に入り。
今日も少し飛び出た長い足を確認してからハシゴを登って行くと、予想通りの姿があった。
初めてここを訪れた日。
バスケ部の練習を観覧しに行った日。
初めて一緒に?帰った日。
少しずつ、私達の距離が近づいているように感じているのは都合のいい解釈をしすぎなのかな?
私の気配に気づいた彼はうっすらと目を開け、許可も取らずに膝の上に頭を預ける。
……これは5限パス決定コースかも。
前みたいに怒られるのは嫌だから、体調が悪いってことにして一応寿にもメールを入れておいた。
『……アンタのこと、あの人にはやんねー』
ふと一緒に帰った夜のことを思い出す。
結局あれが告白だったのかはわからないし確認もしていない。
流川くんのことは嫌いじゃないけど、まだ十分にお互いのことをわかっていないと思うってのが本音だ。
黒いサラサラの髪を撫でる。
普段はクールで口数も少ない上に身長も高い彼だからあんまり年下感はないけど、こういう寝顔を見てたらやっぱり年下だなぁと感じる。
髪を撫でる手を止めると彼の目が開かれる。
「……きもちー」
「髪撫でられるの好きなの?」
「アンタ以外されたことないから知らないけどアンタのは好きだ」
「……そっか」
流川くんってほんっと無意識のうちにドキッとさせること言うんだから。
無意識、ってのが罪なんだよなぁ、もう。
「流川くんって身長何センチ?」
「187」
「へー、やっぱりかなり高いね」
「アンタは?」
「163」
「ちっちぇえ」
「流川くんからしたらね。でも標準サイズだと思うよ」
……なんだか私まで眠くなってきちゃったなぁ。
太陽の光が今日やけに眠気を誘ってくる。
「……ねみーのか」
「んーちょっと……」
うとうとしながら返事をすると、流川くんは膝の上に置いていた頭をどけ、私の腕を引っ張って自分の隣に寝転ばせる。
次第に意識は薄れていった。
その日、初めて彼の隣で昼寝をした。
やけに気持ち良く寝たのを起きてからも覚えていた。
太陽の光とか。
澄んだ空気とか。
心地いい温度とか。
あと、流川くんの隣だから、ってのもちょっとはあったのかもしれない。
「……流川くんの隣って眠くなる」
「……」
「猫ちゃんといると眠くなる気持ちがとってもよくわかる」
「……猫じゃねー」
「言葉の綾です」
二人で塔屋に仰向けに寝転びながら空を仰ぐ。
ゆっくり流れていく雲を眺めていると、不意に長い腕が伸びてくる。
「……流川くん?」
「……」
「どうかした?」
「……アンタ見てたら抱き締めたくなった」
抱き締めたくなった、って。
いつからここは無法地帯になったのか。
膝枕といい、ハグといい、なんでもありではないか!
流川くんのファンの子にバレたら、私生きていけないかもしれない。
……そういえば、赤木くんの妹ちゃんも流川くんのことが好きだとチラッと耳にしたっけ。 prev / next