▼
人物の察しはついていた。寿は自転車なんか乗らないし。
だから私の真横でピタリと止まった自転車に跨る人物を見ても全く驚かなかった。
「……なんで一人で帰る」
「二人とも勝手だから?」
「……」
「だから私も勝手にしてやろうと思って」
歩き始める私の横で流川くんは自転車を押しながら同じペースで歩く。
「どうして急に寿と勝負なんかしたの?」
「……」
「寿のこと嫌い?」
「……そうじゃなくて、」
「……」
「……アンタが、あまりにもあの人の話ばっかしてるから」
「……」
「あんま楽しくなかった」
楽しくなかった、って……子供かて。
別に寿の話ばっかりしてたつもりはないんだけどな。
でもまあ不愉快にさせちゃったなら私にも原因は少しあるのかも?なんて思ってしまう。
「……すまん」
それなのに先に謝ってきたのは彼の方だった。
「いいよ。私も不愉快にさせちゃったならごめんね」
「……不愉快っつーか、」
「ん?」
「……妬いた」
「え?」
「……」
「寿に?」
「……」
「ただの友達なのに妬く必要ある?」
「……モトカレ」
いや、まあ、そうだけど。
元カレ元カノってより、友達って感覚に近いんだけどな。
でも周りからしたら美里がいうようにそうは見えないもんなのかな。
……って。
ちょっと待ってよ。
それ以前になんで流川くんが妬くの?
それってどういう意味?
「流川くん、ヤキモチって知ってる?」
「……しってる」
「どういう相手にするものか知ってる?」
「……しってる」
「じゃあどういうもの?」
「……好きな奴にするモン」
あ、知ってるんだ。
正解!
……って、そうじゃなくて!
なんでそんなに冷静に答えているんだろう、彼は。
そもそもこのシチュエーションはなに?
告白なの?
頭にクエスチョンマークを浮かべる私をよそに、流川くんは自転車を止めて私を見つめて――
「……アンタのこと、あの人にはやんねー」 prev / next