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特等席だ、といって寿はベンチに私達を座らせてくれた。
別のクラスだけど認識のある赤木くんや小暮くんもいいよ、と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。



「こんないい席ラッキーだね!名前さまさまだ!」

「なんで私なの?」

「これも元カノの特権でしょ!」



うーん、違う気がする。
喜ぶ美里に水を刺すようなことはしないけど元カノってよりは友達に近い気がするんだけどな、私と寿の関係って。



「名前さんって三井先輩に大事にされてますよねぇ」



そう言って話しかけてきたのは、バスケ部のマネージャーのアヤコちゃん。
私達より一つ下の二年生。
コートで練習し始めるみんなを満遍なくチェックしながら、私が退屈しないようにと気を遣ってくれているんだろうか。



「……普通だよ」

「えーそうですかねー?でも三井先輩がこんな風に女の子をベンチに座らせたの初めてですよ!」

「そりゃ寿から見に来いって誘ってきたんだから」

「うふふ。名前さんにはさすがの先輩も頭が上がらないんですかね!」

「……口は悪いけど優しいってことかな。バスケに対しても真面目だしね」

「よくわかってるんですね!」



ピピーッ

突然体育館に笛の音が鳴り響く。
耳が劈くくらいうるさい。

何事かと思えば、練習試合中に流川くんがボールを持っていた寿に思いっきり体当たりしちゃったらしくて二人とも床に倒れこんでいる状況だった。
アヤコちゃんは「あーあ」と呆れながらも、二人のそばに寄って状態を確認したりなんだりとマネージャーっぽいことをしていた。



「なんか流川くん……怖いね」

「怖い?」

「うん、バスケしている時の雰囲気が。想像していたのをちょっと違うなーって」

「……」

「あ、こっち戻って来るみたい」



なにもなかったふりをしてコートを見つめる美里。
その横でなぜか私の胸中はもやもやとしていた。

ベンチに戻ってきた流川くんは、なぜかドカッと私の隣に腰を下ろした。
居た堪れなくなったらしい美里は「トイレ」と言って席を立つ。
流川くんがベンチに座っただけだというのに、周りの女の子達はそれだけでキャーキャーと嬌声をあげていた。



「……」

「……」

「……」

「……」



ゴクゴクと水を飲む音だけが隣で聞こえてくる。
肝心の会話はなにもない。
寿はといえば、もう立ち上がってプレーを再開しているから大丈夫のようだ。



「こら、流川!いくら練習試合とはいえあんなにアグレッシブにアタックに行っちゃダメよ!」

「……うす」

「県予選だって控えてるんだから、怪我されたら困っちゃうんだから!」

「……うす」

「本当にわかってんのかしらねー、この子は!」



アヤコちゃんはプリプリと流川くんを注意する。

県予選……
そういえば神奈川県予選は今週末からだっけ?
この前配られた校内プリントに書いてあった気がする。

結局、流川くんは隣に座ったもの最後まで話しかけて来ない上にすぐにコートに戻って行った。
その後ろ姿から溢れんばかりの闘争心がどれだけ彼がバスケに真剣なのかを物語っていた。 prev / next

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