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「名前ー、今日どうする？」「んー」
「カラオケ？」
「気分じゃない」
「カフェ？」
「気分じゃない」
申し訳ないとは思いつつ、美里の提案はことごとく私の気分を擽らない。
「バスケ部の練習観覧」
次の瞬間に聞こえてきたさっきまでとは違う低い声。
部活に行ったと思ったら忘れ物をしたらしく、ゼッケンをつけたまま戻ってきたらしい。
向かい合って座る私達の隣で珍しく寿が誘ってくる。
「それいい！」
「えっと、お前、確か、」
「隣のクラスの美里です！名前と仲良くさせてもらってます！」
この二人って自己紹介済んでなかったんだっけ？
美里とはたまに寿の話をするからてっきり知り合いなんだと思ってた。
よろしくだとかなんだとか挨拶が済んだらしく、美里は私の方を振り返る。
「名前行こうよ！三井くんもこう言ってくれてることだしさ！」
「えー……」
「ついでに例の一年生も見に行こう！」
えー、と不満げに声を出す私の隣で寿が不思議そうに聞き返す。
「例の一年？」
「桜木くんと流川くんっているよね？」
「ああ、バスケ部の名物コンビのことか」
「やっぱりすごい？」
「すごいっつーか……桜木は見たまんまパンチのある奴で、流川は生意気なくらいバスケセンスのある奴だな」
へぇ。
寿がそんな風に他人のことを褒めるなんて珍しい。
パスが遅いだの、フェイクが下手だの、いつもはダメ出しばっかりのくせに、バスケセンスのある奴だーなんて最高級の褒め言葉に近い。
中学校時代MVPの寿がいうからこそ説得力のある言葉になるんだけどね。
……流川くんってそんなにバスケ上手いんだ。
「寿がそんなこと言うなんてね」
「あ？」
「……いいよ、見たくなった」
「桜木を？それとも流川か？」
「寿っていう選択肢はないんだ？」
「いまさら名前が俺のことを見たくなるっておかしいだろ。……なるんだったらもっと早くなれっつーの」
最後の方が聞き取れなくて聞き返してみたけどそれ以上は答えてくれなかった。
そして練習に戻るという寿に連れられて私達も体育館に向かうことにした。
体育館の入り口にはかなりの人数の生徒がいる。
目に付くのは特有の衣装を着た女の子達。
”RU・KA・WA”
って……なにあれ？
流川くんのことかな？
寿曰く、流川くんの親衛隊やらファンクラブやらが結成されているらしい。
本人は一切関与なしの非公式にもかかわらず、人数は毎日増え続けるってすごすぎでしょ。
やっぱり人気なんだな、湘北バスケ部のエースは。
……なんか、この前の屋上での出来事が夢みたい。
こういう親衛隊の子にバレたら面倒くさいことになるんだろうなぁ。 prev / next