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「こんなところよく見つけたね」「ん」
「人の目から逃げたい時とかこういう場所いいな」
「ん」
「眠い?」
「ん」
「目がトロンとしてる」
ついさっきまで寝てたみたいだしね。
しかも、起こしたであろう紛れもない張本人は私っていう。
「邪魔してごめんね。もう戻るよ」
死体じゃない確認もできたし。
流川くんの隠れ場も知っちゃった。
登ってきたばかりのハシゴを降りようと足をかけようとした瞬間、グイッと腕を引っ張られて元いた場所に引き戻された。
ビックリして顔を上げるとバツの悪そうな流川くんがこっちを見ていて、
「べつにいい」
「うん?」
「ここにいても」
「いいの?」
「……その代わり膝貸してほしい」
彼は返事を聞く前に勝手に私の膝の上に頭を乗せてくる。
どうやったらそんなすぐ寝れるの?ってくらい早業で彼は眠りに落ちたらしい。
スースーっと再び規則正しい寝息と無邪気な寝顔を浮かべた流川くん。
変なの、昨日の今日なのに膝枕って。
……私の方が先輩なのになぁ。
でも、嫌だって感じないのはなんでだろう?
流川くんがかっこいいから?
流川くんが有名人だから?
もしそんな考えで彼を許しているなら、私って相当現金な女だなって嫌になっちゃう。
膝の上の彼のせいで身動きが取れず、結局5限のチャイムは私たち二人には意味をなさなかった。
あまりにも気持ち良さそうに寝ている彼に声を掛けることもできず眺めながら、いつの間にか私まで意識を手放していた。
コクンコクンと何度か首が落ちかけているのはうっすらと感じていたが目を開けるまでには至らなくて。
そんな私が目を覚ましたのは、膝の上の彼が大きく身じろぎしたからだった。
「……あ」
「んー……私まで寝ちゃってた……?」
「……ん」
「ごめん、つい」
流川くんがのっそりと身体を起こす。
「……寝過ぎた」
「今何時かわかる?」
「5限が終わったくらい」
「うっそぉ、丸々サボっちゃった」
「……おれも」
制服のポッケから取り出した携帯画面には寿からの怒りメールまで届いてる。
どこでサボってやがる!って……確かにサボってたけど!
……眠気は不可抗力。
教室戻ったら絶対文句言われるな、これ。
「うー、寿になに言われることか」
ブツブツ画面に向かって文句を呟いていた私に流川くんはなんとも言えない瞳で尋ねてくる。
「メール」
「ん?」
「……先輩?」
「先輩って……ああ、そっか、流川くんからしたら寿は先輩か」
「……」
「サボってないでさっさと戻って来いっていう文句のメールが来てたの」
「……」
「自分だって昔はしょっちゅうサボってたくせにね。バスケに改心してからすーぐこれなんだから」
正直、不良の時よりもいまの寿の方が好き。
喧嘩ばっかりより、バスケに集中してる方が寿には似合ってるもん。
適当に返信しようと文字盤に指を掛けたところで一回り以上大きな手がそれを制した。 prev / next