▼ 猫みたいな彼
ある日の昼休み。昼食を食べ終わると美里は委員会の用事があると行ってしまったので手持ち無沙汰になった私は久しぶりに屋上へと足を運んでいた。
最近は雨続きだったから、余計に晴れている今日の外は気持ちいいだろう。
屋上のドアを開けてうんっと大きく伸びをしたところで、ふと塔屋に目が留まる。
……なんか飛び出てる。
長い足のような……なにあれ?
恐る恐る近寄って見ると、男子生徒の制服を身につけた長い足が塔屋から飛び出ているのだと悟った。
死体じゃなければいいんだけど、なんてありもしない妄想を抱きながらハシゴを登って覗いてみる。
「……あれ」
「……」
「……流川くん?」
そこには見覚えのある姿があった。
気持ち良さそうにスースー寝息を立てながら眠っている。
なんとなく隣に腰を下ろして、その端正な顔を食い入るように見つめていた。
太陽の光に反射するツヤのある黒い髪。
白い肌に長い睫毛。
整った綺麗な顔立ち。
……どことなく猫っぽい。
寝顔とか。
クルンとして寝ている体制とか。
クスクスと無意識のうちに笑みを零すと、うんっと小さく唸る声がした。
そして……パチっと二つの瞼が開いた。
みるみるうちに開かれる瞳は、鋭い鷹の目の様。
「おはよう」
「……うす」
「起こしちゃってごめんね」
「……いえ」
よく考えてみれば、会うの今日で二回目なんだけど。
私のしていることって冷静に考えたらストーカーっぽいよね?
人の寝顔観察、とか。
「ストーカーじゃないからね」
「……」
「たまたま来てみたら飛び出た足が見えたから」
「……」
「そしたら流川くんがいた」
……言い訳がましいなぁ。
いや、本当のことなんだけど。
自分で言っておきながら、やけに必死だなぁって。
「……名前」
「ん?」
「知ってるんだ」
「流川くんの?」
「……おー」
「そりゃ有名だからね」
……知ったの昨日だけど。
ついでに全部美里情報だけど。
「ウソだ」とやけに勘の働く突っ込みをしてくれた流川くんに、「ごめん」と年上の私の方がタジタジだったのは内緒だ。 prev / next