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某カラオケ店にて。「三井くんに渡せた？」
「うん」
「でもさ、いいよねー」
「なにが？」
「三井くんとあんな風に仲良くできるなんて。学校中探したって名前くらいだよ」
「別に美里が話しかけたら普通に話してくれるよ」
「それはそうかもしれないけどさー。やっぱり元カノの特権っていうの？」
「……どうだかね」
寿は黙ってたら確かに怖そうだけど。
でも今は昔ほど怖くもない。
それに、一見ああ見えても本当は優しい、ただの熱血バスケットマンだ。
「なんで別れたんだっけ？」
「バスケを選ぶっていうから」
「え？バスケと恋愛くらい両立できるでしょ！」
「不器用な寿にはムリ。それにどれだけ過去を後悔してるかとかバスケが好きだとか知ってるから。だからこそ、話し合ってお互いいい形でサヨナラしたの」
「そっかー。名前はもう三井くんのこと好きじゃないの？」
「いまは純粋に友達かな」
友達に戻ろう、そう二人で決めた。
別れた当時は少し辛かったけど、いまはただ寿にはバスケを頑張ってもらいたいって思ってる。
大学のバスケ推薦だって成功してほしいって思ってるから。
そうじゃなかったら、さっきだってわざわざ進路希望調査用紙を届けたりしないっての。
「……そういえばさ、」
「んー？」
「さっき体育館行った時、赤い髪の子見たんだけど」
「それって例の一年生？桜木くんだっけ？」
「知ってるの？」
「中学時代は三井くんに負けず劣らずの不良だったって噂だよ。あともう一人、一年生にいる流川くんって子」
「……流川くんも？」
「ううんー、彼は不良じゃない。むしろ、入学早々バスケ部エース背負ってて超かっこいいって学校中の噂」
「……へぇ」
あの子が。
ちょっと意外かも。
確かにルックスも良くて女の子が好きそうなクールな感じだったけど。
「なーに名前、どっち狙ってるの？」
「どっちも狙ってない」
「うそー。名前の口から男の子の話が出てきて何にもないわけないじゃない！」
「なにそれ。ほんとに違うよ」
失礼ね。
人を男漁りみたいに呼んでくれちゃって。
……ただ、
「ただ、なんとなく」
「ふーん」
「……」
「これは絶対何かある」
「ない」
「いや、近々絶対ある」
「……」
「名前に三井くん以来の彼氏ができたらこれまた学校中の噂になるね」
他愛もない話をしながらリモコンを操作する。
美里の話を半分耳に入れつつ、なんとなくさっき体育館で見かけた’彼’のことを思い出していた。
黒い髪の、身長がかなり高い、……流川くん、か。 prev / next