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「……ミッチーって寿のこと?」二人が言い合う様子を見つめながら、隣に立っている黒髪の子に尋ねてみる。
チラリと視線をやると、私の頭1.5個分くらい大きな体格にこれまた驚いた。
「たぶん」
「すっごいねーあの赤い髪の子。寿相手に度胸あるなぁ」
「バカなんで」
バカというか怖いもの知らず?
寿といえば、今じゃ’バスケットマン’なんて呼ばれてるけど昔は根っからの不良だったし。
ここら辺じゃ結構有名なワルだった。
本人は改心したからもう忘れたい過去だ、なんて言ってるけどね。
「コラァ、流川!」
「……」
「この天才をバカ呼ばわりするとは何事だぁ!」
「……」
……あ、行っちゃった。
突然絡んでくる赤髪の子を無視して、流川と呼ばれた黒髪の子は体育館の中へと入って行ってしまった。
やっぱり第一印象通りクールな子。
「ところでミッチー」
「あ?」
「このお方は……」
「私?」
「は、は、はい!」
「寿のクラスメイトの苗字名前です」
同じ3年3組。
ついでに隣の席。
そのせいで今わざわざここに来る羽目になったんだけど。
「そうそう。んでもって元カノ」
「……っは!?」
「声でけーよ、桜木」
「だ、だって、いま、ミッチーの元カノって言った!?こんな綺麗な人が!?」
「おい、そりゃどういう意味だ」
「こんな元不良がいいとは、名前さん……!」
桜木と呼ばれた赤髪の子は、思いっきり同情めいた目を向けてくる。
でもこの二人のやり取りはギスギスしたようなものじゃなくて、仲のいい友達同士が言い合っている光景に似ている。
……寿もちゃんと部員と打ち解けてられたんだ。
なんかちょっとだけ安心したな。
「じゃあ寿、私行くから」
「おー。届けもんサンキューな」
「どういたしまして」
「桜木くんも部活頑張ってね」
「あ、あ、ありがとうございます!」
そうして私は体育館を出て、美里の待つ玄関口へと向かった。 prev / next