「惜しかったな、ユキ。また対戦しような!」 「う、うん。っゆ、遊真!!」 「どうした?ユキ。……ん?なんだ?これ。」 「い、いつもお世話になってるから、あげるっ!!じゃ、じゃあね!!」 あの日から早くも、1ヶ月が経とうとしている。 そう、今日はホワイトデーだ。 結構強引に渡してしまったから、きっと義理チョコだと思われているだろうけど、それでいい。本命だなんてバレたら、遊真のことだ。面倒だとかなんだかで、バッサリと関係を切られてしまうかもしれない。 現に、あれから日が経っているけど、私たちの関係はいつも通りだ。同じB級攻撃手で、ブースで会ったら対戦する。少し世間話もする。そんな仲。 「…おいしかったかだけでも、聞けばよかった。」 関係が変わることが怖いくせに、あの日の出来事を引きずっているのは、私だけだ。 ストン、とロビーのソファに腰を下ろす。 そもそもあの日、あの行為の意味を遊真は理解していたのだろうか?…日本のことに疎い彼のことだから、知らないかもしれない。けど、元は外国のイベントだし…? 「あああ…」と頭を抱えると、隣のクッションが沈む感触がした。 だれ?と思い顔をあげると、狙いすましたかのように、先ほどまで考えていた、遊真の姿。 「よ。会えてよかった。」 「ゆ、遊真。」 何か用?と聞く前に目の前に差し出されたのは、大きな紙袋。 備え付けのテーブルの上に、その中身を置いていく。 いろとりどりの箱が並べられ、私の鼓動もどんどん増していく。お返し、くれたりするのかな。なんて。 「おれがうまいと思った菓子をたくさん買ってきました。どうだ?ユキ。」 「え、すごい!!どれもおいしそうだね!!…どれかくれたりするの?…なーんて…」 「?…全部ユキに買ってきたんだぞ?ばれんたいんに、ぶらうにー?くれたからな。うまかった。」 「は、ぇ……。」 「ほら、もらってくれ、ユキ。」 「こ、こんなに持ち運べないよ…。」 「なんと、じゃあもっかい紙袋に入れなおすか。」 せっせと紙袋にお菓子の山を詰め直す遊真。 なんで、こんな。たくさん。 ぽかん、と思考が停止してしまっていたが、 慌てて普通ではないことに気づく。 「ゆ、遊真、まさかチョコくれた子、みんなにこの量くばってるの!?大丈夫??」 「ほかの人には違うのをあげたよ。さすがに、これだけの量はユキだけだな。」 「な、なんで……」 「…理由、わからないか?」 ピタリ、と手を止め、私の顔をじっくり見つめる遊真。 その目は少し笑っていて、私の回答しだい、という感じだ。 「わ、わかんない。」 「はい、ウソ。わかるだろ?……それとも、おれに言わせたい?」 ジリ…と近づく距離、私の背もたれの部分に手を伸ばし、私の顔を覗きこんでくる。 なんでこんな余裕たっぷりなのよ、同い年のくせに、私よりちっちゃいくせに!! もはや現実逃避しか逃げ場がなく、キャパを完全に超えている。ぼそり、と掠れた声しかだせない。 「わかんない、わかんないよ。…遊真の気持ちなんか、全然わかんない。 ……私が、遊真のこと、好きだってことくらいしか、わかんないもん…。バカ……。」 言ってしまった、と自覚したときにはカァ…と自分の頬が火照るのを感じた。 SE使うなんて、ズルイ。遊真のSEに引っかからないように気持ちを隠すなんて、私には無理だ。だってもう。 "好き"の感情が溢れて、止まらないの。 「…ユキ。」 「な、に。…ひ、ぁ、ちょ、ゆうま、近い、!!」 「おれもユキのこと、すきだよ。」 「ぇ、……。」 「うそ、」と呟きぱっと顔を上げると、「ウソじゃないよ。…ちょっと恥ずかしいな、これ。」と全然恥ずかしくなさそうな顔で言うもんだから、もう、なにがなんだかわからない。 「先に言わせてすまんな。…ちょっと悔しかった。ユキがチョコくれたときはばれんたいんを知らなくて、後から知ったからな。…言ってくれればよかったのに。」 「…むり、恥ずかしいもん、…義理チョコだと思われてると思ってたし…」 「あんなに緊張してたらだれだって感づくよ。…かわいいな。ユキ。」 「ひぇ……。」 遊真がさらに近づき、真っ白のふわふわな髪が私の髪をかすめたとき、とうとう耐えきれず、遊真がくれたお菓子が詰まった紙袋を私と遊真の間に入れ、距離をとった。 けれど遊真の方が上手で、紙袋ごと抱きしめられてしまい、思考が停止してしまうまで、あと少し。 back page |