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「#幼馴染」のBL小説を読む
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効果はバツグン!

「かわいい……。」

それに、ちょっと色っぽい。

夏服を求めショッピングを楽しむ中、パッと目を引いたのは、デコルテと肩が大胆に見えるオフショルダーのトップス。色は夏らしいさわやかなホワイトで、気になる二の腕はふわふわのデザインで隠してくれている。お値段も…イイ感じ。お給料が入ったばかりだから、買ってしまおうか。

少し前まで、私はあまり服にこだわりがなかった。けれど、遊真くんと付き合いはじめてからは段々と自分の見た目を気にするようになった。格好良くて男前な遊真くんに似合う、心身ともに素敵な女の子になりたいと思ったのだ。

そして、私は意外と欲張りだ。できることなら遊真くんにもっとかわいいと思ってほしいし、遊真くんを夢中にさせる魅力的な女性になりたかった。


手に取って、店員さんに声をかけて試着室に入る。ドキドキしながら袖を通すと、たっぷりのフリルがあしらわれたデザインは大人っぽくもあるが、背伸びしている感じなく、結構…いや、かなり似合っていた。かわいい服を着ると少しだけ自分に自信がつく。この服を着た私を、遊真くんはどう思うのだろうか。普段こんなかわいらしい服を着ないから、仲の良い友達はびっくりするだろうな。遊真くんも、びっくりしてくれるかなぁ、なんて。

遊真くんと会うときは基本制服か隊服だし、優しい彼はニコリと笑って「かわいいな」って褒めてくれるかな。褒めてくれたら、嬉しいな。……それに、


いつもなら絶対選ばない少しだけダイタンなデザインに、彼はドキドキしてくれるだろうか。


ニコニコ笑顔の店員さんに軽く会釈をする。手にはしっかりと、ショッピングバッグが握られていた。


















「……度胸が、足りなかった。」

あれから何度か遊真くんと出かける機会はあったが、結局遊真くんの前で着ていく勇気は出なかった。もうすぐ、夏が終わってしまう。

せっかく買った服は、すっかりタンスの肥やしになっていた。遊真くんを夢中にさせる魅力的な女性になるのはまだまだ先のようだ。そもそも、遊真くんが女の子に骨抜きにされメロメロになっている姿を想像できなかった。彼はいつだって相手を翻弄し、夢中にさせる側だから。実例は私です。

肥やしにしておくにはあまりにももったいない服を取り出し、もう一度着てみる。外で着れない分、家で着てあげようと思ったのだ。くるりと鏡の前で一回転。…やっぱり大丈夫。似合ってる、はず。少なくとも変じゃない。ちょっとセクシーだけど、かわいらしいデザインだから背伸びしている感じもない。


でもやっぱり、ちょっと派手…?なんて、眉間にシワを寄せ鏡の前で悩むこと5分。スマホがパッと明るく点滅した。チラリと確認して、目を見開く。ブルブルと震えるスマホには"遊真くん"の文字。なんというタイミング。先程から脳内に占めていた愛しい人からの電話であった。慌てて[通話]ボタンを押し、スマホを両手で耳に当てた。


[……ユキちゃん?]

「っも、もしもし!ゆきです!」

[よかった。電話出てくれてありがとな。今、少しだけ時間あるか?]

「大丈夫だよ!どうしたの?」

[よかったら少し話そうぜ。…実は、今ユキちゃんちの前にいるんだ。]

「えっ!?!」


窓ぎわのカーテンを開けると、すぐに見えた白いふわふわ。「遊真くん、」と呟いた声が聞こえたのか、パッと目線が上げられ、ニコリと笑ってくれた。思わず手を振ると振り返してくれる。無意識に笑みが溢れた。


[声だけでもと思ったけど、やっぱ顔見れると嬉しいな。]


その一言でなんだか胸がきゅうっと苦しくなって、直ぐに遊真くんの元に駆けつけたくなった。窓から離れ、急ぎ足でドアの方へ向かう。しかし、ドアノブを握ってピタリと静止した。もう外は暗い。親ももう帰ってきている。こんな時間に1人で外には出られないだろう。……親に、なんて言い訳する?


少し悩む。今日は電話だけにしてもらおうか、いやでも、遊真くんに会いたい。こんな遠くからじゃなく、もっと触れられそうな、近い距離で。

再び窓ぎわに足を運ぶと、戻ってきたことに不思議そうな顔をした遊真くん。ゴクリと唾を飲み込み、静かな声で言葉を発した。


「遊真くん、あのね。」

[うん?]

「…ここまで、来れたりする…?」


沈黙。ここからじゃ遊真くんの表情までは見えないが、キョトンとしているのかなぁ、なんて想像した。うちは2階建ての一軒家だ。私の部屋は2階の南側の部屋。つまり道に面している方の部屋である。だから遊真くんと顔を合わせられたワケだけど、なんせ2階である。遊真くんの身体についてはもう知っている。身体能力的には大丈夫だろうけど、なんというか、さすがに無茶な頼みかなと思った瞬間、ふわりと風が部屋に舞い込んだ。


「こんばんは。…そしてオジャマシマス。ユキちゃん。」

「……!…こんばんは!!」


羽織っていたシャツをはためかせ、窓枠に足をかけて口元を緩める遊真くんは最高にかっこよかった。つい口元が緩んでしまう。


「靴は預かるね。いらっしゃい、遊真くん!」

「……………」


あれ、返事がない。少し不安に思いながら遊真くんを見ると、目線はこちらを向いている。けれど目は合わない。どこを見て……服??


サッと顔が青ざめた。今の今まで気づかなかったことが馬鹿みたいだ。


(わたし、着替えてない…!!)


もはや勇気以前の問題である。完全な事故だった。


「ゆ、遊真くん…あの……」


か細い呼びかけは届かなかったのだろうか、遊真くんは固まったまま、うんともすんとも言ってくれない。


冷や汗をかきながら、内心は恥ずかしさでいっぱいいっぱいだった。遊真くんはどう思ったんだろう。吉か凶か、どちらに転んだかも分からないまま時が過ぎる。ただ、遊真くんの視線が熱い。ガッツリ見られてる。主に露出した部分を。中々に遠慮のない視線に、思わずお腹の前で手をぎゅっと握りしめ、視線を下に逸らしてしまう。

でも、隠しちゃだめだ。見てもらえ、あわよくばドキドキしてもらえ。この男を少しでも魅了するために買った服なのだから。顔がアツい。理想は、視線を合わせて「どう、似合ってる?」だなんて聞いてみたい。……ウソやっぱむり!!!そんなおとなのおねえさん(概念)みたいなことできない!!!


「………これ、着てくれ。」


ふわりと肩からかけられたのは、遊真くんが来ていた半袖のシャツ。淡いブルーが綺麗で……ほんのりと遊真くんの香りがする。

なんだか思った反応と違う…と眉を下げてしまったが、今度は逆に遊真くんが黒のタンクトップ1枚の姿になってしまい、カァ、と顔を赤らめてしまった。だって、だって、いつも意外と着込んでるし…


慌てて「ありがとう」と笑みを浮かべると「おう、」と歯切れの悪い返事が返ってきた。……これはもしかして、あんまり印象よくなかった…?服、似合ってなかった、かな。そう思った瞬間、心がどんどん冷えていくのを感じた。

どうしよう、はしたないとか思われたかな、私はただ、ちょっとでも"かわいい"と思ってほしかっただけで……。

せっかく電話してきてくれたのに、「会いたい」って言ってくれたのに、…無理言って、部屋にまで来てもらったのに。


自分の服ひとつで、気まずい空気になってしまうだなんて思いもしなかった。今思えば、随分と浮かれていた気がする。……いっつも遊真くんは、「ユキちゃん、かわいいな」って褒めてくれるから、きっと浮かれてた。褒めてくれるって、思い込んでた。そんなの、主観的な意見でしかないのに。やだな、恥ずかしい。


シャツを羽織ってからは至っていつも通りの遊真くんだった。「ユキちゃんの部屋、初めて来たな」なんて言いながら、もの珍しそうに部屋を見渡している。


「ユキちゃんらしいな。女の子らしくて、かわいい部屋だ。」


そう言って遊真くんがニコリと笑うから、なんだか泣きたくなってしまった。褒めて欲しいのは、部屋じゃないのに。


「そ、んなに、似合ってなかった…?」

「えっ、」

「シャツで隠したくなるくらい、見苦しかった?」

「ちょ、ユキちゃん?」


気づけばポロリと涙がひとつ溢れてしまう。やだな、泣くことなんかじゃないだろうに。案の定、遊真くんは目をまんまるにしてオロオロと手を彷徨わせている。こんなはずじゃ、なかったのにな。


「遊真くんに、かわいいって、言ってほしかっただけなの…っ、」

「ユキちゃん、」

「ゆうまくんの、好みじゃないなんて、知らなかったの…ッ、」


とうとうしゃがみこんでホロホロと涙を溢す私の頭をなでなでする遊真くん。その手つきは優しくて、でもこんなに優しい遊真くんを困らせる服を選んで着てるんだって思うと、涙は全然止まらなかった。


「ユキちゃん。」

「………ぐすっ、」

「なぁユキちゃん、この服、おれのために選んでくれたのか?」


羽織っていただけのシャツが取り払われて、床に落ちる。頭を撫でていた手が背中にまわり、ぎゅっと包むように抱きしめられた。


「ユキちゃんは何着てたってかわいいけど…これもすごく似合ってるぞ。」

「……でも…」


じゃあこれは?と目線を床に落ちてしまったシャツに落とすと、遊真くんがなんとも言えない表情を浮かべる。ますますワケが分からなくなった。


「あー……これはおれが悪い…のか?」

「…あんまり、言えない理由?」

「いや、まぁ言えと言われたなら言うけど、」


煮え切らない返答に首を傾げる。首を傾げると、遊真くんが目線を斜め下に向けた。



「…すまん、邪な目で見た。」



ぼそりと低い声色で気まずそうに呟かれた言葉に目を見開く。そのままふいっと顔を逸らしたまま、頬を少しだけ染めた遊真くんにぶわりと顔が真っ赤に染まった。邪…ヨコシマ、よこしまな、目。その意味を正しく理解し、恥ずかしくはあるものの、嬉しく思う気持ちが確かにあった。よかった、かわいいって、思ってもらえてた!嬉しい!!幸せな気持ちでいっぱいになり、思わず遊真くんにぎゅうっと抱き付いた。


「おっと、」

「よ、よかったぁ…!!ちょっと挑戦した服装だったから、遊真くんの反応気にしてて…」

「うんうん、そっか。……ところでユキちゃん。」

「ん?」






「"邪"の意味、ほんとにわかったか?」


「……え、」


「…おれが何も言わずにシャツをかけた意味、わかったか?」


ゆっくりと、けれど強い力で両肩を静かに倒される。背中とカーペットがピッタリとくっつき、見上げた先にはもちろん、私を静かに押し倒した遊真くんがいた。


「おれを煽って、その次どうするのか、ちゃんと考えてたか?」

「……ぁ、えっ、と。」


「ユキちゃんは、おれを信用しすぎだ。」


赤い瞳が私を射抜く。すっかり言葉を無くしてしまった私を咎めるように一息吐かれ、遊真くんの端正な顔が近づいてきた。キス、される。


ちゅ、と1回だけ触れ、遊真くんが静かに離れていく。それと同時に、私は目を見開いた。遊真くんの唇が、私の鼻のてっぺんに押し当てられたから。


「おれ、ちゃんと15歳だよ。シシュンキってやつ。」


思春期の男子とは思えない冷静な対応だったけど…なんてドキドキしつつ、遊真くんの言うことは最もだと、少し反省をした。もう少し、いろいろ考えるべきだったのだ。その、節度、とか。


「ふつーにムラムラするし。ガマンの限界ってやつもある。」

「…ヒェ」

「だから、まぁ」




スルリと剥き出しの肩を撫でられる。遊真くんの手はひやりと冷たくて、思わずピクリと身体を震わせた。





「次は、ないぞ。」


「……ぁぃ…」



今日のところは、なんとか許してもらった。


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