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「#幼馴染」のBL小説を読む
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[1時間イチャイチャするまで出られない部屋]



「「1時間イチャイチャするまで出られない部屋]…??」」


どうやら私と遊真くんは、謎の部屋に閉じ込められてしまったようです。














「なんだこれ、どういう仕掛けだ?」

「い、イチャイチャしなきゃ出られないって書いてあるけど…」


いきなり閉じ込められたことで引き上げられた警戒レベルが下がっていく。これはまた、なんとも不思議な部屋に来てしまった。私たちは確かにボーダー基地内にいたし、換装していたトリオン体はそのままだ。
エンジニアさんの研究の一環なのだろうか、とりあえず敵意は無いと判断する。が、問題はそこではない。


眉を寄せちらりと遊真くんを見る。ぱちりと目が合って、びくりと身体が跳ねた。


「とりあえず内側から壊せるか試してみるか」


手裏剣の形をしたスコーピオンが壁面に向かって投げられる。衝撃音を立て傷一つつけることなく跳ね返ったスコーピオンに素早く弧月を構えたが、軽い足取りで私の前に躍り出た遊真くんがスコーピオンを静かにキャッチした。えっなにそれかっこいい…


「……無理だな。たぶん内側からじゃ壊せん。」

「あ、諦め早いね…??」

「まぁ、たぶんあれが正解だろうな。」


クイッと親指でさされた先に見えたのは冒頭に2人で読み上げたあの文字。思わず身体がギクリと強ばった。


「なにも困ることは書いてないしな。あの条件を達成しても出られなかったら、またそのとき考えようぜ。」


ニカリと歯を見せて笑う遊真くんに、私は何も言い返せなかった。












「い、イチャイチャって、なにするの…??」

「さぁ、おれにもよくわからん。」


ジリ、ジリ…と近づいてくる遊真くんに後ずさる私。遊真くんの表情がいつもと変わらないのがなおさら不穏だ。


「…ところで、ユキちゃんはなんで逃げるんだ?」

「だ、だって、だって…」


正直、彼女になった今でも、遊真くんの側にいるだけで心臓がうるさいのだ。こんな、お膳立てされたような部屋で、一体大好きな彼と何をしなければいけないのか、考えただけでも顔から湯気が出そうだ。好き、だけど恥ずかしい!この矛盾した気持ちはいくら説明しても、遊真くんは首を傾げるばかりであった。


「別になんてことないだろ。おれたち、もういっぱいイチャイチャしてるじゃん。」

「は、ぇ、あ、む、無理!!!やだ!恥ずかしい!!」

「…お、鬼ごっこか。いいぞ、負ける気がしない。」


3秒後には、遊真くんの腕の中にいました。












「ほら、ヨシヨシ。そんなに落ち込むなよ。」

「だ、だって3秒で捕まった……」


顔をぴったりと両手で抑える私の頭を撫でる遊真くん。秒速で捕まった私に人権などなく、今は胡座をかいた遊真くんの上でお姫様だっこされていた。

「おっ、時間が進んでるぞ!」と遊真くんの嬉しそうな声が聞こえたため、あと1時間このゼロ距離で遊真くんと接することが確定した。

時間が進んだのはいいことだけど、だけど…!!



「なぁユキちゃん、そろそろ顔あげてくれ。」

「むり、むり……」

「なんと…断られてしまった。」


私の右半身が遊真くんと密着してる…いや右半身どころじゃない、全身もれなく密着してる。遊真くんの透き通る声が耳元で響くし、背中にまわった腕や二の腕を掴む手のひらなんか特に熱い。心臓があばれている。この状況で、顔をあげる…??えっむり…と判断し現在に至っていた。


「ユキちゃん、もう10分経ったぞ。」

「うん…」


できれば1時間現状維持でも構わないのだけれど、と思った瞬間だった。



「… ユキちゃん。」



ちゅう



「…ッ!?!ひぇあ!!!なっ、なに!!」


「おっ、やっと顔見えた。」


「えっ、えっ…!!」


ニヤリとしたり顔の遊真くんに顔が真っ赤な私。顔を覆っていた手に、吸い付くようにキスされた。あまりの衝撃に言葉を失ったが、遊真くんはとても満足気だ。


「意外と強情だったな。ユキちゃん。」

「そ、そうだけど……」

「さて、何しようか。」

「な、なにもしなくていいから…!!」


ジッと遊真くんに見つめられる。遊真くんの表情が一瞬消えたことにヒヤリと背筋が凍ったが、目元がゆるりと細められ、口元は綺麗な弧を描くものだから、何も言えず生唾をごくりと飲み込んだ。



「… ユキちゃん、かわいいウソつくね。」



するりと後頭部に手がまわされ、優しい圧力がかかる。またひとつ、今度は唇に口づけが落とされた。




「はっ……」

「ん?」

「破廉恥だぁ……」


「…なんと。」




コテリと遊真くんの胸に顔を預けキャパオーバーを起こしてしまった私は、その後の記憶がすっかりなかった。目覚めたら仮眠室のベッドに横になっていて、遊真くんが私の寝顔を優しい顔で見つめていた。変な声をあげて再びベッドに顔を押し付けた。



「おはよ、ユキちゃん。」




鎖骨に咲いた赤い華には、当分気づきそうにもない。


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