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一瞬で、奪われる。

恋人とは、なんだろう。
私は晴れて、遊真くんと恋人になった。けれど、だからといって特別何かをするわけではないし、以前と同じように、私は変わらず遊真くんが大好きだ。

よく、恋人同士のステップアップとして、Aまでいった。Bまでいった、Cはまだ、などという隠語が使われたりもするが、恋人とはつまり、そういう、甘いコトをする関係を言うのだろうか。もうすぐ高校生になるとはいえ、まだ中学生の私にはなんだかほど遠い出来事のように思えた。

(大好きな遊真くんとお話ができて、模擬戦をして、一緒にごはん食べて……これで十分、満足だけどなぁ。)

何も変わらない私たちの関係。
別に不満などないし、むしろ幸せすぎるくらい今の現状がありがたいことではあると十分に理解している。けれど、これでいいのかなぁだなんて、なんだか漠然とした不安に駆られてしまったのであった。


(遊真くんは、私と"そういうこと"、したいだなんて思うのかな。)

考えて、ぽぽっと頬が赤くなるのを感じた。
慌ててブンブン、首を横にふった。

(い、いやいやいやいや、ないない。遊真くんからそんなこと言われたことないし、そもそも、遊真くんはそんなことで悩まないだろうし……)

でも、もし万が一、万が一にでも、私と恋人らしいことをしたいと思ってくれていたのなら。


「…遊真くんとなら、わたし、」


顔に集まる熱は、未だ収まりそうになかった。










「ユキちゃん?話、聞いてるか?」

「は、はいっ!!」

訝しげな表情でこちらをじっと見る遊真くんに冷や汗を浮かべる私。いくら遊真くんの部屋で2人だけとはいえ、意識しすぎだ、私。いやだな、恥ずかしい。遊真くんはそんなことちっとも考えてないだろうに。

「何か悩み事でもあるのか?」

「………。」

「あるんだな。おれには言いたくないことか?」

「………う、」

遊真くんの、サイドエフェクトを駆使した容赦ない尋問が始まる。距離を詰めた遊真くんは私の両肩に手を置き真正面から見つめてくるので、別の意味でドキドキと心臓の音が速度を増していく。

チラリと目を合わせる。視界に映るのは、遊真くんのふわふわな白い髪、綺麗な肌、赤い大きな瞳、小さく形が良い鼻、そして緩く閉じている、唇。

唇を3秒ほど見つめ、ハッと我に帰り慌ててそっぽを向く。いやいや、今のはダメ、なんか、変態っぽかった!!!アウト!!そう自分にバツ印をつけ、邪念が抜けるよう必死に意識を散らした。

そんな意味のわからない行為をする私を心底不思議そうに見る遊真くん。本当に申し訳ない。こんなにくだらない悩みなのに、きっと心配してくれている。優しい遊真くんは、私が何を悩んでいるのかと寄り添おうとしてくれている。

もう一度チラリと遊真くんを見る。「ん?」と首を傾げ、優しい眼差しで見つめられてしまえばゆるりと心が溶かされ、なんだかそれほど、自分の悩みごとが隠すようなものでもないかもしれないと思った。気づいたときには、するりと言葉が出てきてしまっていた。


「遊真くん、私って、その…遊真くんの、彼女…だよね?」

「?うん。ユキちゃんはおれの、大切な恋人だよ。」

「ヴッ」

「どうしたんだ、ユキちゃん。」

「な、なんでもない!それでね、その…」

じっと私を見つめる遊真くんの眼差しは、優しい。


「遊真くんと……その、恋人らしいことが、してみたいなって、思いまして……」


バクバクと跳ねる心臓をなんとか正常に押さえつけ、必死に言葉を紡ぎ出す。とても遊真くんの目を見て話すことはできなかった。

聞こえたかな、聞こえたよね?遊真くん、どう思っただろう。どんな顔をしてるんだろう。気になるけど、顔が見れない。…嫌われてないかな、女の子からこういうこと言うの、引かれてないかな。

静かな空間に、唾を飲み込む音が聞こえた。どちらが発した音なのか分からず、その音は消える。


「……しても、いいのか?」


へっ、と息のような間抜けな返事にアクションは無く、思わず顔を上げると、頬を手で包まれる。そのまま固定され、顔を下に向けることはできなくなった。感情が見えない真顔の遊真くん。視線が交わったまま、数秒が経過した。


「ユキちゃん。」


遊真くんの親指が、私の唇をスルリと撫でる。ピクリと反応してしまい、元々熱かった顔がさらに熱く火照る。望んだのは自分なのに、ジリジリと追い詰められている現状に、今にも逃げ出したくなった。


「キス、するぞ。」


叫ばなかったのは褒めてほしい。反射的にぎゅっと、力一杯目を瞑った。もう耐えられない、まだしてないのに。しかし、待てども想像した行為は行われず、頭に疑問が浮かび始める。な、何か変なことしちゃった…?だいじょうぶ、かな…。


「… ユキちゃん。」

「……?」


今度は目元をスル、と撫でられる。恐る恐る目を開けていくと、大きな瞳をとろりと蕩かせ、甘く私を見つめる大好きな人。視線がしっかりと、絡み合った。


「大好きだ。ユキちゃん。」


驚きに目を見開く。あ、遊真くんが近い。


ちゅ


それは、一瞬の出来事だった。




瞬きもせず、ゆっくりとスローモーションのように離れていく遊真くんを、ぼうっと見つめる。

目尻を下げ、ほんの少しだけ口角を上げた遊真くんが、潜めた低い声色で私に言葉を吹き込んでいく。

「どうだった?ユキちゃん。」

頭がポワポワと浮かれてしまい、あまり物事を上手に考えられない。どうだった、どう思った?感想を聞かれている。…大好きな遊真くんが、キス、してくれた。


「……しあわせ、です。」


頬が緩んでしまい、締まりのない顔で笑う。素直な感想を口にしてしまったが間違いではなかったようで、優しい遊真くんの表情がさらに甘く、甘く蕩けた。


「おれもしあわせ。」


おんなじだな。と呟かれたことが嬉しくて嬉しくて、思わず遊真くんの背中にきゅっと腕を回した。

遊真くんも同じように私の背に腕を回し、少しだけ力を込められる。遊真くんが私の肩に頬を擦り寄せたのが可愛くて、愛おしくて、ちょっぴり恥ずかしくて、「遊真くん、そろそろ…」と離れてほしいという旨を伝える。まだそれほど時間は経っていないが、これ以上くっついていると本気で爆発してしまうので今日はこれくらいで勘弁してください。

肩に顔を埋めていた遊真くんはゆっくりと顔を上げ、眉間にシワを寄せて少し不満そうな表情をする。


「…ずっと思ってたんだけど」

「……?」

「ユキちゃんって、あんまり欲がないよな。」

「……そう…かな?」

思わず頭にハテナマークを浮かべてしまう。
そうだろうか、今だって恋人らしいことをねだったばかりだというのに。


「キスくらい、いつでもしてやるのに。」

「…っ!!!」

「24時間ずっとは無理でも、こうして2人でいるときくらいはずっと抱き合ってるのもいいと思うぞ。おれは。」

「へ、あ。」


「まあいいや。ユキちゃんが意外と"こーゆーこと"に興味あるのがわかったし、これからは変なエンリョはせず、したいときに好きなだけすることにした。」

「……!?!…ゆ、遊真くん!?」


思わず遊真くんの両肩を押し距離を取る。なんだか妖しい雰囲気になってきたため体制を整え…と思っていたら、離さんといわんばかりに強い力でもう一度腕を引かれ、遊真くんの胸の中にダイブした。顔を上げずとも、楽しそうな声色から遊真くんがどんな顔をしているか予測できてしまった。


「ま、1も100も変わらんだろ。……これからいっぱい、キスしような。」

「!?!?」

「よし、じゃあ早速」


イタダキマス。柔らかく丁寧な言葉が聞こえてくる反面、腕を引く力は強く、私を見つめる瞳にはギラリと、熱情が見え隠れしていた。




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