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もう、おれのもの。

(……意外と交友関係、広いんだよな。)


空閑遊真は悩んでいた。

事の対象はちょうど1週間前にできた自身の彼女、一ノ瀬ゆき。少し人見知りをする面はあるが、社交的で年相応に後輩らしさが残る彼女は、よく先輩を中心とするボーダー関係者と談笑している姿が見受けられる。確かに学校でも、友達に囲まれ楽しそうに笑っている姿がよく見られた。


ユキちゃんの笑った顔は好きだ。
恥ずかしそうに照れた顔もちょっと怒った顔もなんでも好きだけど、遊真は眉を下げへにゃりと目元と口角を緩めて心底幸せそうに笑うゆきが一等好きだった。

もちろん遊真に向けられる笑顔が一番緩んでいてかわいいことには間違いないが、どうにもあの、人好きのするというか、「あなたに好感をもっています」とでもいうような愛らしい笑顔が日々不特定多数の人間(男)に向けられている現状が、遊真をチクチクと刺激して仕方がない。


(かといって"笑うな"とも言えんし、"男と話すな"なんてもっての他だ。……おれが気にしすぎなだけか?)



「もう、米屋せんぱい、揶揄わないでくださいよ。」

「わりーわりー、ついな。」


眉を下げ、へにゃりと笑うユキちゃん。その笑顔は今日も抜群にかわいかった。

ゆきとボーダー隊員の会話の大半が、自身とゆきの関係についてだということも知らない遊真は、またひとつ、小さなトゲを抱えた。


「……おれだけ見てればいいのに。」


1オクターブは低い声色でぼそりと呟かれた言葉は単なる独り言だった。だが、どうしようもない事実でもあった。








「……うわぁ…」

「どうかしたのか。菊池原。」

「いや、別に…」


かわいいとは言い難い男の嫉妬を目の当たりにしてしまった菊池原は、小さくため息をついた。今日も己のサイドエフェクトは絶好調なようだ。














「ユキちゃん、おはよ。」

「ひぇぁ!?…っゆ、遊真くん!!お、おはよう!」


一連の思考を無かったことにし飄々とした態度で近づいた遊真。足音を消していったのはワザトである。驚いたかわいい顔のあとにおれの大好きなふにゃふにゃの笑顔。2度オイシイ思いをするがためにされた行為は中々に迷惑なものであったが、盲目なゆきは全く気づかない。遊真に会えただけで嬉しさが勝る、素直な女の子であった。


「ユキちゃん昼食べた?まだだったら一緒に行こうぜ。」

「あ、ずっと個人戦してたからこれからだよ!やった、一緒にたべよ!」


ニコニコ笑うゆきにふわりと笑みを浮かべた。抱えた小さなトゲがスッと溶けてなくなる瞬間だ。また知らないうちに少しずつ抱えていくのだけれど。


「じゃあな、一ノ瀬に白チビ。仲良くやれよ〜」

「あ、対戦ありがとうございました!せんぱい!」

「…余計なお世話だよ。よねやセンパイ。」


去り際にくしゃりとゆきの頭を撫で、ニヤリと含み笑いをした米屋を歯痒い思いで見つめる。緊急脱出間際に置き土産として一仕事されてしまったときのような後味の悪さが遊真の心に残った。


「全く、よねやせんぱいは乱暴だな。」


米屋がゆきに触れた痕跡を残したくなくて、さりげなく米屋の印象を下げつつ髪を直してあげた。自分は優しく、丁寧に触れよう。そう心がけながら、ゆきの頭を撫でた。


少し目線を落とし、黙って頭を撫でられるユキちゃんのほっぺはりんごの色。恥ずかしいけど嬉しい、といったところだろうか。遊真はときどき思う。こんなにかわいいユキちゃんが誘拐されないニホンって、マジで治安いいな、と。


「よし、直ったぞ。ユキちゃん。」

「あ、ありがとう!遊真くん。」

「いいよ。じゃあ行こうか。」


はにかむゆきに笑い返す遊真。あぁ、今日もかわいいユキちゃんが毒牙にかからないよう、おれがよく見張っておかなければ。


周りからは遊真のことが大好きなゆき、という構図に思われているが、それは間違いであった。
ゆきに対する想いを誰にも話すことなく、ただただ一心に思い続け、消化したくてもできない想いを抱え拗らせてきた遊真のゆきに対する恋情は、ゆきのそれと比較しても、勝るとも劣らないものであった。その事実は、未だ誰も知らない。



















「遊真くんは…オムライスだ!おいしそう!」

「ユキちゃんはカレーか。そっちも美味そうだな。」


ニコリと笑い返して、遊真はゆきの向かい合わせの席に座る。人が多い場所では向かい合わせ、人気の無い場所では隣に。これはゆきと付き合い始めてから遊真が自分に課した小さなルールであった。理由はとても単純。隣り合わせは、ゆきとの距離が近くて触れやすいから。あんまりところ構わずスキンシップが過ぎるとゆきが困ってしまう。自制しなくてはいけない場面では、意識的に向かい合わせの席を選ぶようにしていた。


「うん!この前イコさん先輩が、"ナスカレーめっちゃうまいで!"って力説してたから気になっちゃって!」

「…へぇ。」


盛大な寒暖差が生まれた。


(…ちょっとおっきなスプーン持ってる遊真くん、はちゃめちゃかわいい……まってまって、スプーンで卵つついてる。かわいすぎる…!!大好き…!!)

(また男か……いこま先輩…ギリギリ殺れるか?いやそれよりも…やっぱりそろそろ、周りに釘を刺しておくべきか。)


ちらりとユキちゃんを見ると、どこか幸せそうにおれを見つめていた。なんだか毒気が抜かれてしまい、卵をつつくのを止めスプーンを差し込んだ。そして少しだけ反省をする。さすがに余裕が無さすぎたなぁ、と。

こんなにもおれに夢中な女の子に、今さら何を疑う必要があるのだろうか。


「…ユキちゃん、じっとこっち見てどうかしたのか?」


今度はこちらがじっと見つめてやれば、白いほっぺがほんのり桃色に染まった。


「えっ!?あ、その、な、なんでもないよ!!」

「つまんないウソ、だね。…あ、なるほど、わかったぞユキちゃん。オムライス食べたいのか?」

「へっ!?あ、う、うんそう!!そうなの!!」


慌ててコクコクと頷く彼女は、きっとオムライスじゃなくて自身を見ていたのだろう。気づいていた。けれど、気づいていたことは教えてあげない。それを伝えれば恥ずかしがり屋な彼女は、涙を浮かべてしまうかもしれないから。


「いーよ。じゃあほら、……口、あけて。」


あーん。と差し出されたスプーンにピシリと固まるユキちゃんを無視してスプーンを近づける。チラチラとこちらを伺うボーダー隊員の数は決して少なくない。
こんなことで遊真の憂いが晴れるわけではないが、何もしないよりは、幾分か心がマシになるはずだ。


「ユキちゃん。あーん。」


眉をへにゃりと下げ、少し涙目のユキちゃん。恥ずかしいんだろうな、こんな"コウキョウノバ"で。やはり先程、余計なことを言わなくてよかった。照れ屋な彼女はよくほっぺを桃色に、さらには林檎色に染めている。今はまだ桃の色。いつもと違うのは、羞恥から少しだけ潤んだまんまるの瞳。


(…ほんとに、カワイイよなぁ。)


さすがにここじゃあ無理か、また後日、と手を引っ込めようとした瞬間、ぱくり。スプーンを口に含むやわい唇が見え、ぴくりと身体が震えた。


「お、おいしいね、遊真くん。」

「…カレーもくれよ。ユキちゃん。」

「エッ」

ギョッと目を見開いたあと、米を掬いカレーを掬い、大きめのナスを選んだユキちゃん。覚悟を決めたようで、スプーンがこちらへ傾けられた。

「ど、どうぞ、遊真くん!!」

「ありがと、ユキちゃん。」

ぱくりと差し出されたスプーン口に含む。スパイシーなカレーに大ぶりのジューシーなナスがよくあっている。うまい。素直にそう伝えると、ユキちゃんはやっぱり、嬉しそうに笑った。



「…やっぱアイツら、付き合ってんのかな?」
「じゃね?ドンマイ。」
「バッ…まだ好きじゃねーし!ちょっと気になってるだけだって言っただろ!?」




そうだよ。付き合ってる。
おれとユキちゃんは恋人同士で、おれの彼女はユキちゃんだし、ユキちゃんの彼氏はおれだ。


つまり、ユキちゃんは、






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