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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -


こじれアイ。


「……また作りすぎちゃった、」

カチ、と火をとめ出来上がったおいしそうな料理を見つめる。

(1人分って難しいな、どうしても多くなっちゃう。)

常に忙しく働き、家の中でも険しい顔付きが多い両親に笑顔になってほしくて、はじめた料理。

今となっては、自分の空腹を満たす役割しか担っていない。


なんだか、虚しい。

そう、思っていた。


「……よし、この量なら、むしろ増やして……玉狛に持ってこうかな!」


それが今は、小さな喜びに変わっていた。











「ユキちゃん、ごちそうさまでした。」

「あ、ありがとう……!お粗末さまでした。」


食器を流し台までもってきてくれた遊真くんにお礼を言う。結局、量を増やした割にはいない隊員が多く、余っちゃうかな……と心配していた料理が、綺麗に平らげられており、軽く驚いてしまった。


「あれ、……え!?ぜんぶ、食べたの?だ、大丈夫?気持ち悪くない??」


慌てて遊真くんの顔色を伺うが、どこか満足そうな様子であることしかわからない。

とりあえず体調は悪くなさそうなので、ほっ、と息をついた。そんな私を見てコテリ。遊真くんが不思議そうに顔を傾げた。


「気持ち悪い?なんでだ?ユキちゃんの作るものはなんでもうまいぞ?気持ち悪くなることなんてあるわけないだろ。……ユキちゃんの料理が食べられて、おれ、幸せだよ。」


「…っ、あ、ありがとう……。」


かあぁ、と赤くなる顔を片腕で隠す。にっこり笑う遊真くんに、今日もまた、恋に落ちてしまった。














「お、オサムくん…。」

「はい。どうかしましたか?」

「ま、また惚気てもいい…?」

「は、はい、いいですよ。」

「遊真くんかっこよすぎるよ…!!」


遊真くんのかっこよさに触れたあとには、必ずオサムくんに報告することが、いつのまにか習慣になっていた。

オサムくんにはとてもとても申し訳ないけど、毎回なんだかんだと聞いてくれるので、つい甘えてしまう。それに、私の知らない遊真くんの話を聞けるのも嬉しいポイントだ。今日もお世話になります。と、心の中で呟いた。















「ありがとね、オサムくん。こんな時間まで……。」

「いえ、外、もう暗いので、気をつけてくださいね。あ、僕、送っていきましょうか?」

「大丈夫!!ありがとう。」


パタン、と扉を閉め一息つく。おすそ分けに来ただけだったので、窓から見える外の暗さに驚く。さすがに早く帰らなければ。と、

少し歩いたところで見えた姿に、ドキリと心臓が跳ねた。


「あれ、遊真くん……?」

「ユキちゃん。……用事は済んだのか?」

「うん!……って、え、ぁ、な、中の会話、聞こえてた!?」


少々食い気味に聞くが、遊真くんは至って落ち着いており、そのまま首を横にふる。その顔は、どこかつまらなさそうだ。


「なんにも?……聞かれちゃマズかったのか?」

「そ、んなこと、は、う、うーん……。」


「…ユキちゃんさ、オサムのこと、好きなのか?」


突拍子も無い発言に、ついビクリと大げさに反応してしまう。


「…っえ!?そりゃ、す、好きだけど、遊真くんだって、好きでしょ?いきなりどうしたの?」

「…おれとは意味が違うだろ。」

「え、遊真くん、どうし…、」

「な、ユキちゃん。知ってた?…オサム、チカが好きなんだよ。今だって、チカのために、遠征目指してがんばってる。」

「う、うん。知ってる、つもりだったけど、…わ、私、オサムくんと話したらダメなの?わたしね、オサムくんに迷惑かけてばっかりだけど、邪魔するつもりなんかないよ。だ、だって、わたしは…」

「…ユキちゃん。…オサムと、あんまり話すなよ。」

「……っ、な、なんで、なんで遊真くんが、そんなこというの…」

「……たしかにおれに言う資格はないけど、でもあの2人は、おれの大切な、仲間だから。」



頭が、真っ白になった。

………じゃあ、私は?


遊真くんにとって私は、遊真くんの大切な2人を、邪魔する存在?



なんで、という怒りよりも先に、罪悪感や自己嫌悪が私を襲った。遊真くんはずっと、オサムくんと話す私を見て、2人の心配をしてたのに、……私は、呑気に、遊真くんとのことを惚気て、浮かれて、



(……あぁ、今すぐ………消えてしまいたい。)


そのあと私は、どのような行動をとったのか、覚えていない。ただ、気がついたら、自分のベッドの上だった。

無意識の内に電話をかける。ほとんど衝動的な行動だった。


「……もしもし、オサムくん?………うん、あのね、これからもう、玉狛行かないけど、あんまり気にしないでね。………話も、もうすることないから、………これからもがんばって。じゃあ、」


ぷつり。



私の恋は、簡単に終わってしまった。














「く、空閑!!」

自分を呼び止める声に振り向く。聞き慣れたその声は、もちろんオサムのもの。

慌てた様子に、ざわ、と胸騒ぎがした。


「お前、ゆきさんに何言ったんだ!!」

「…オサム、お前、ユキちゃんのこと、名前で
呼んでたっけ。」

「そんなことを聞いてるんじゃない!僕の質問に答えろ!!」

「別に、…おれは、オサムとチカのためを思って。」


「…珍しく、つまらないウソをつくな、空閑。」

「別にウソじゃないよ。…半分くらいは。」


「ほんとに、なんでこんなことを…。」


「…オサムはいいよな。ユキちゃんに好かれてて。…何か特別なことでも、したのか?」


オサムが驚いた顔をするのが見えた。その表情の意味が分からず、眉間にシワを寄せる。少しだけ考え、あぁ。と納得した。

きっと、おれがユキちゃんを想っていることを、知らなかったんだ。


「空閑、お前……。今すぐゆきさんに謝ってこい。きっと、とんでもない勘違いをしてる。……ユキさん、もう玉狛に来ないって、悲しそうな声で言ってたぞ。」


"悲しそう"。

その言葉に、ズキリと胸が痛んだ気がした。

さっきまで、他の人を好きになったユキちゃんに、苛立ちのような気持ちが募っていたはずだったのに。


「……おれ、ユキちゃんを悲しませたのか。」


ふ、と怒りが消え、自分の今までの怒りに対して、虚しさがこみ上げてきた。


(ユキちゃんには、いつだって笑っていてほしい。)


だから、もう。


「オサム、……おれ、ユキちゃんに謝ってくる。」

「あぁ。そうしたほうがいい。」



(……たとえオサムのことが好きでも、ユキちゃんが幸せなら、)



















親は、少し前に亡くなってしまった。

それを追いかけるように、危険な戦争の最前線に立つボーダーに入って、でもやっぱり私は未熟で、本当に親の後を追いそうになったとき、


命を助けてくれて、私の頑張っていたことを、一番に褒めてくれた人。

そんな大好きな人に邪魔だと思われた私は、

もう、彼の前に立つ資格がないから。





ピンポーン。軽快に呼び鈴が鳴った。

慌てて向かう。ドアを開く前に、「ユキちゃん。」と声がした。目を見開く。

そろり、ドアを開けると、やはり。私の大好きな人がいた。



「……遊真くん。」

「おれだよ。……すまんな、ユキちゃん。」

「ううん、私の方こそ、迷惑かけてごめんね。」

「………なぁ、おれが、ユキちゃんにひどいこと言ったから、ユキちゃんは笑ってくれないのか?」

「……遊真くんは、ひどいことなんて言ってないよ。事実しか、言ってないから、…遊真くんが悪いなんてこと、あるはずないよ。」

「そんなことないだろ。……いつも優しいユキちゃんを、悲しませたのはおれだ。」


「でも、それはわたしが、邪魔だったから。」


口からスルリと言葉が流れ落ちた。遊真くんの驚いた顔が見える。私も自分で言って驚いた。言わないように、してたのに。

ほろり、と溢れた雫は、地面に染みを作っていく。ああ。私のバカ。

自分からわざわざ、傷つきにいくなんて。



「………ユキ、ちゃん?」

「わたし、遊真くんにとって、いらない存在だから。…遊真くんが大切なのは、オサムくんとチカちゃんで、その2人の邪魔になりそうなわたしは、遊真くんにとって、邪魔だよね?」




「……そんな、わけ、ないだろ。」

「……。遊真、くん?」


「おれが、邪魔なんだよ。…おれが、オサムとユキちゃんを応援できないから、」


「?…オサムくんと、わたし?…よく、わからないけど、遊真くんにとって大切なのはオサムくんとチカちゃんだから、わたしはやっぱり、いらな…「違う、違うよ。おれが、ユキちゃんが好きだから。全部全部、おれのわがままだ。ごめんな、ユキちゃん。ごめん」



え。と目を瞬かせた。下を向いて動かない遊真くんをじっと見つめる。


「…ほんと?」

「そうだよ、すまん、ほんとに、」


思わず、遊真くんをぎゅう、と抱きしめた。ぱっ、と遊真くんが顔を上げたので、目線を合わせる。

ドキドキが止まらない。体も震えてる。けど、



「わ、わたし、遊真くんがこの世界で一番大好き。遊真くんが、好きなの。……遊真くんのこと、好きでいていい?」


今度は、遊真くんがキョトリ。と目を瞬かせた。

瞬間、私の背中に腕が回され力強く引き寄せられる。
慌てていると、遊真くんとぱっ、と目が合う。その表情は、いつも私を幸せな気持ちにしてくれるときの笑顔と同じだった。


「当たり前だろ。ユキちゃん。……もう一回ちゃんと言わせてくれ。……大好きだ。ユキちゃん。」







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