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近くにあった公園のベンチに腰を下ろす。
チラリと隣を見ると、遊真くんもこちらを見ていた。
「な、ユキちゃん。……おれの話、聞いてくれるか?」
少し寂しそうな表情をする遊真くん。珍しい表情に、きゅう、と胸が痛くなりながらもコクコクと頷いた。
そんな私の様子に、ふ、と笑いながら、目線を下に落とす。その拳は、硬く握り締められていた。
「……いつだって、悲しいのは置いていかれる方だ。おれは、ユキちゃんを、その立場にしたくない。
……ユキちゃんには、笑っていてほしいんだ。ユキちゃんが笑ってさえいれば、…その隣は、おれじゃなくたって、構わない。」
ぎゅう、と心臓を鷲掴みにされたように、生きた心地がしない。遊真くんを見つめていた視線が下に落ちるのに気づきながら、もう一度遊真くんを見上げることは出来なさそうだ。目頭が熱くなるのを感じながら、黙って話を聞いていた。
「……そう、思ってたんだけどな。…この場所は……ユキちゃんの隣は、ずいぶん居心地がいいんだ。」
ボソリと呟かれた、少し掠れた声に驚き、つい顔をあげてしまった。
私を見つめる遊真くんと目が合う。
その顔は少し照れているようにも見えて、そんな彼にたまらない気持ちになる。そんなの、私だって、私のほうが、
「わ、わたしは…っ、遊真くんの隣にいる、今が一番好き…っ、何に対しても本気になれなかった私が、本気でがんばろうって思えた、唯一の人なの…っ、遊真くんがいい、遊真くんが、大好きなの……。」
「…ユキちゃん。」
「未来ことなんかより、今、いま、私を幸せにしてくれるのは、遊真くんの存在なの、遊真くんのおかげで、わたし、今、最高に楽しいんだ…っ、ねぇ、好きだよ、遊真くん。今までも、これからも。"私"を作ってくれるのは、遊真くんなんだよ…。」
「……ユキ、」
拙い表現ばかりのこの想いが、どうか伝わってくれないかと遊真くんの手をとり、ぎゅう…っと握りながら伝えた言葉。
遊真くんの手を握る私の手がゆるやかに解かれ、逆に遊真くんの手の中に、私の手がすっぽりと収まった。
思わず遊真くんの顔を見上げた。
「……好きだ。」
赤い瞳に映っていたのは、紛れもなく私。
一瞬遅れて、その愛の言葉が私に向けて発せられたのだと理解した。
「おれの人生で、唯一の恋人になってくれ。」
私の気持ちなんて分かっているはずなのに、ぎゅう…と握りしめられた手から遊真くんの誠実さ、真剣さが、たくさん伝わってくる。
言われた内容があまりにも私に都合が良すぎて、理解しているはずの言葉を何回も咀嚼する。ほろりと頬を流れる雫を感じながら、遊真くんをただただ見つめた。
「…長くない命だけど、おれがユキちゃんのこと、幸せにしたいんだ。……答え、聞いてもいいか…?」
答えなんて、考えるまでもない。
ボロボロと流れる涙から上手く言葉が出てこず、首をコクコクと振った。
そんな私に口もとを緩め、少しだけ笑う遊真くん。あぁ、本当に、かっこいい。好き、大好き。
「…は、い…っ、…わたしを、…っ、遊真くんが息をしている、最後まで、私を、遊真くんの大切な人にしてほしい、です…っ、」
握られた手が解かれる。そのまま背中にするりと腕を回され、力強く遊真くんのもとへ引き寄せられた。
そっ…と私も、震える腕を遊真くんの背中に回すと、くすりと笑う小さな声色が耳に響き、カアァ…と顔が熱くなる。なんだか恥ずかしがってることが恥ずかしくなり、思い切ってぎゅうっ、と遊真くんに抱きついた。
それに比例するように、遊真くんの腕の力も強くなる。心臓の音が脳に直接響いているようで、ドキドキと落ち着かない。
「…おれを好きになってくれて、ありがとう。」
私の方こそ、ありがとう。
再び流れ出した涙が止まったとき、そう言いたいなと、心から思った。
ずっと前から好きでした!私と模擬戦してください!
完