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じゅうううう!!!
食欲をそそる香ばしい香りに、鉄板から響き渡る素敵な音。
なんと連れてきてもらった場所は、カゲ先輩の家のお好み焼きやさんでした。は、初耳…!!
「わぁあ……!!お、おいしそう…!!私、お好み焼きやさんでお好み焼き食べるの、初めてです…!!」
「そうか。ここのお好み焼きは美味いぞ。カゲの奢りだからたんまり食ってけよ。」
「おいコラ荒船。勝手言ってんじゃねーよ。……鋼!!てめー食うのはえーんだよ!!ちったあ待てや!!」
「むぐ、……ん?すまない。こういうのは熱々の内に食べた方が美味いと思って…。」
「あらふねさんやむらかみ先輩の言う通りだぞ。ユキちゃん、たんまり食え。」
「あ、ありがとう、遊真くん…!!」
てめーも勝手言ってんじゃねー空閑!!と怒号が飛んでくるがそんなのつゆ知らず、といったふうにもぐもぐとお好み焼きを頬張る遊真くんを見つめる。か、かわいい……好き……!!
乏しい語彙が頭の中を駆け巡る。ちゃっかり遊真くんの正面の席をキープした私は、実はもうその時点でほっこり大満足なのであった。
え、隣?……むりむりむり、自分から隣の席に座るなんて、ドキドキで死んでしまう……。
「……ほっ、」
「おっ、前より上達したんじゃないか?」
「中々やるじゃねーか、空閑。」
「お褒めにあずかりアリガトウゴザイマス。……ユキちゃん、食べる?」
「…っ!!た、食べたい!!遊真くんが作ったやつ…!!」
キラキラとした眼差しを向けると、遊真くんも嬉しそうに笑いながら「これは中々の力作です。」と言って私のお皿に切り分けてくれた。
その一連の流れにニコニコニヤニヤする鋼先輩と荒船先輩に、ケッ、とジト目で私たちを横目で見るカゲ先輩。
一口分に切り分け、口に入れる。思わず頬が緩んだ。お、おいしい…!!遊真くんが作ったと思うと、2倍おいしい…!!と我ながら現金なことを思いつつパクパクと食べ進めた。
「そういえば、絵馬くん達…影浦隊の人は来ないんですか?」
「あー、ユズルはコイツんとことチビといるだろ。んでゾエは犬飼のヤローに捕まって、ヒカリは知らねぇ。」
「そうだったんですか…。絵馬くんとか、もう少し話したかったなぁ…。」
「なんだ一ノ瀬。影浦隊のみんなと仲良かったのか?」
「あ、知ってるのは絵馬くんだけですよ。前まで話したことなかったんですけど、当真先輩と遊んでたときに少しだけお話して…。」
「当真?そっちの方が気になるな。てかお前、当真と遊ぶって、もしかして狙撃できんのか?今度俺にも付き合えよ。」
「あ、はい!ぜひ!当真さんはずっと前からお世話になっていて、今度また誘われてるのでそのときに…」
「ユキちゃんは、攻撃手だろ。」
えっ?と思いながら声がした方に振り向く。目があったのは、私をじいっ…と見つめる遊真くん。発せられた声も表情もどこか無機質で、少し驚いてしまう。
なんとなく、慌てて遊真くんに返事をした。
「う、うん。狙撃手になるとかじゃないけど、前は一応狙撃手だったし、たまにはいいかなって……。」
「なんだよ空閑、別にいいじゃねぇか。偶には一ノ瀬貸せよ。」
荒船先輩がなだめるようにそう言うと、ムムム…と効果音がつきそうなくらい眉間にシワをよせ考え込む遊真くん。
こんな遊真くんはあまり見ない気がして、なんだか私が冷や汗をかいてしまう。遊真くん、大丈夫かな…。
「……たまには、だからな。」
「えっ、う、うん……?」
しぶしぶ、といった感じに少し戸惑ってしまうが、遊真くんも考えがまとまったようで、ほっ、と安心した。
そんな私を見た遊真くんは、なにを思ったのか。ずいっ、と身を乗り出し、顔を近づけてくる。大好きな遊真くんが視界いっぱいに広がり惚ける私。ゆ、遊真くん、かぁっこいい…。
「ユキちゃんさ、」
「は、はい!」
「おれのために、強くなるんだろ?」
「…ぇ、………っ!?」
カァっと顔が赤くなり、キョロキョロと視線を彷徨わせる私。そんな私としっかり目線を合わせてくるので、逃げ場はなかった。
「余所見してるヒマ、あるのか?」
「よそみ……、な、ないです…。」
ふるふる、と首を横に振ると、遊真くんがニッ、と歯を見せて笑ってくれた。す、好きすぎる…。
「そんなにヒマなら、おれと遊ぼうよ。いつでも相手になるぞ。」
「も、もちろん…!!」
ナチュラルに遊真くんからお誘いを受け、嬉しさで胸がいっぱいになる。う、嬉しい…!!
そんな私を見てから、ふ、と笑みを浮かべた遊真くん。真顔の遊真くんもかっこいいけど、笑ってる遊真くん。好きだなぁ…とあらためて遊真くんに惚れ直す。
遊真くんもストン、と自分の席に座り落ち着いたようだ。おいしそうにお好み焼きを頬張っている姿に再び、きゅん、と心が弾んだ。
「……おい、一ノ瀬」
「はい、なんですか?」
こそりと話しかけてきた荒船先輩に、ハテナマークを浮かべる私。遊真くん、カゲ先輩、村上先輩は次の模擬戦の話をしているようだ。
「お前、意外と良い線いってんじゃねーか?」
「え…?」
「空閑だよ。上手くいきそーだな。よかったじゃねぇか。」
ポン、と頭を撫でられ、話はそこで中断された。
(上手くいきそう、……かぁ。)
多分それは、両想いになれるとか、付き合えるって意味だと思うけど、それならきっと、"上手くいく"ことはないだろう。
ふ、と苦笑いが溢れる。
(遊真くんの本音、ちゃんと聞いたしね。)
無責任なことはしないと言い切った遊真くんの言葉を、気持ちを、ちゃんと受け取った上で、私はこの選択をしたのだ。
それでも遊真くんのそばで、遊真くんの人生を楽しませたいって。
そう思ったはず、だったのに、
遊真くんを身近に感じるたび、遊真くんのかっこよさに触れるたびに、私はきっと、何回も心が揺れている。
(遊真くん、……大好き。)
その気持ちは一瞬たりとも変わらないのに。
大好きで居続けることが、今は、
少しだけ、くるしい、だなんて。