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「……強くなったな。ユキちゃん。」
「ほ、ほんと!?…ゆ、遊真くんに褒められると、嬉しいなぁ…」
ふむ、と少し考えるように腕を組む遊真くんと、ニッコニコの私。先ほどの10本勝負の結果は7対3。もちろん遊真くんの勝利だ。
「……ユキちゃん、おれの動き、わかりやすい?」
「えっ!?そんなことないよ!?まず速すぎてついていけないし、攻撃の手段も豊富で絞りきれないし、もう遊真くんのペースになったら、どんどんされるがままで…。」
「その割にはけっこう的確に対応されるんだよな…。ユキちゃん、むらかみ先輩とか、かげうら先輩にも3本とれる?」
「鋼先輩はわかんないけど、カゲ先輩には1本しかとれなかったなぁ。」
「ふむ…。なるほど、ユキちゃんはおれを殺すのが上手なんだな。」
のほほんとした笑顔で中々にショッキングな台詞を言われ、ピシリと表情筋が固まった。遊真くんはそれでいいのか、と目だけ動かし遊真くんを見るが、楽しそうなのでほっ、と息をはいた。
「ユキちゃんと戦うのも楽しいけど、案外、共闘とかも楽しそうだな。」
「えっ、」
「ユキちゃんは、おれの動きとか思考とか読んで行動するから、味方になったら連携とか上手くできそう。」
「遊真くんと一緒に、戦う……かぁ、」
「防衛任務、一緒になったときが楽しみだな。」
「う、うん!!」
そのとき、携帯が鳴った。遊真くんだ。
遊真くんが携帯に視線を落とし、数秒。その口角がニヤリと上げられた。
「オサムからだった。今からミーティングだな。」
「…そっか、お疲れさま!遊真くん!」
「またな。ユキちゃん。」
ばいばい、と遊真くんに手を振り、ふ、と考える。
遊真くんを楽しませたい。その一心で頑張ってきたことが、遊真くんを助けることにもつながるなんて、考えたことがなかった。
思い出したのは、A級隊員の先輩達と任務や緊急時に戦ったときのこと。
あんなふうに、遊真くんと。
「………っ!!!」
(なにそれ、絶対楽しいに決まってる。…やば、ワクワクがとまんないどうしよう。)
慌てて口もとを手で押さえる。だって、一瞬で想像できてしまったのだ。
遊真くんに背中を預けて、遊真くんの背中を預かって。足りないところは補い合って、遊真くんの動きに合わせてフォローして。上手くいったら、ハイタッチなんかして。
そこまで考えてから、違和感に気づく。
(……あぁ、これは違う。遊真くんには、もうちゃんと、"仲間"がいるんだった。)
それは、玉狛第二という、遊真くんのチームメイト。
(部隊、かぁ…。)
「おっ、もしかして、ゆきか?」
肩をぽん、と叩かれ振り向く。…驚いた。
「えっ…、と、当真さん!!!」
「なんだお前。ほんとにB級上がったんだな。東さんに聞いたときはびっくりしたぜ〜。」
「あ、でもその、狙撃手じゃなくて……。」
「知ってる知ってる。攻撃手になったんだろ?…ったく。みずくせーじゃねーの。おれに一言言えよな。」
ぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜ…いや、撫でながら笑う当真さん。相変わらずなその様子に、口もとが緩んでしまう。
狙撃手になって、初めての合同訓練のとき、隣で遊ん…訓練していたのが当真さんで、「なんだお前、へったくそだな〜。狙撃ってのはこうやんだよ。」と優しく…はないが親切に声をかけてもらって以来、お世話になっていた人だ。
実力はかけ離れていたが、見かけたら声をかけてくれたし、一緒に狙撃手になった友達がボーダーを辞めてしまったときも、当真さんが仲良くしてくれたから、なんだかんだボーダーをそのまま続けていた。つまり恩人である。
「何ヶ月ぶりですかね。ポジション変えたのもありますけど、その前は当真さん、遠征行ってましたし…。」
「なんかなつかしーよなー。あんだけ構ってやったのに、あっさり狙撃手辞めやがって。さびしーじゃねーの。」
「えっ…!?当真さんが寂しい…!?!?」
「オイオイ。相変わらず失礼なやつだな。B級に上がって態度デカくなったんじゃねーの?ゆきちゃんよ〜。」
むにーんと両頬を左右に引っ張られ、いたいいたいと抵抗するが、トリオン体だろとすぐさま論破された。その通りですが……。
(これでNo. 1狙撃手なんだよなぁ…)
ジト目で当真さんを見つめると、「お前なんか失礼なこと考えてるだろ。」とチョップされた。ひ、久しぶりなのに扱いひどすぎない!??
「ま、いーや。久しぶりに先輩様に付き合えや。」
「え、……まさか。」
「訓練室行くぞ〜〜。あ、チップ狙撃手用のに変えとけよ。」
「…ま、まじですか…。」
ずるずると引きずられていく私。チラリと当真さんを見ると、楽しそうだったから、まあいいかな。なんて。
久しぶりに会えて嬉しいのは、私だけではないようだ。
「久しぶりだからな。たくさん遊ぼうぜ〜。」
「…はい!!!」