ずっと前から好きでした!私と模擬戦してください! | ナノ
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

24


「………!!!」


視線の先には、白いふわふわ。水色の隊服。

名前を呼ぼうとするが、その姿は他の隊員に隠れてすぐ見えなくなってしまう。慌てて追いかけ、手を伸ばす。届いた。


「おっ、…と?」

「ゆ、遊真くん!!!」


いきなり手を掴まれ、後ろにくんっ、と引っ張られた遊真くんは、その大きな瞳を丸くさせ、少しだけ驚いたようだ。

その目に私が映った瞬間、ほわ、と気持ちが暖かくなる。


「ユキちゃんだ。久しぶり。」

「ひ、久しぶりだね!!」


ニコ。と笑う遊真くんに、はにかみながら挨拶する。ほ、本物の遊真くんだ…!と嬉しい気持ちがたくさん溢れてくる。ダメだ、好きの気持ちが止まらない…。


「……どうかしたのか?」

「えっ。」

「だってほら、これ。」


これ、と目の高さまで持ち上げられたのは、私が掴んだままの遊真くんの手。慌ててその手を離した。


「おれに何か、急ぎの用?」


コテン。と首を横に倒し、不思議そうに聞かれる。当たり前だ。でなきゃ普通、手を取って相手を止めるなんて、そうそうすることではないだろう。


「ゆ、遊真くんに、」

「うん。」


「…あ、会いたかった、の。」

「………。」

「それだけ、です…。」


きっと、今の私の顔の色を聞いたら、全員がりんごの色。と言うだろう。つまり真っ赤だ。

体は時が止まったかのように固まってしまったのに、頭の中は後悔の嵐が渦巻いていく。

あああ、どうして私はいっつも考えずにまず言葉にしちゃうんだろう、何回同じ間違いをしたことか、いいかげんに反省しないと、ぐるぐる思考が混乱してくる。


「……おれも。」

「え、」


「会えて嬉しいよ。ユキちゃん。」

「……〜〜〜っっ!!!」


ニコリと、なんだか微笑ましいものを見る顔でさらりと言われてしまえば、思わず手で顔を覆ってしまう。なにこれなにこれ、すっごい恥ずかしい。けど、嬉しい…。


「ご、ごごごめんね、私も、何言ってんだろほんと、口が緩いってゆうか、もう、な、なんか、うぁ…。」

「まてまてユキちゃん。おれは責めてないぞ。素直なとこはユキちゃんの良いところだろ?おれも嬉しいよ。……ただ、素直すぎて、ちょっと心配になるけど。」

「??…心配、って?」


思いもよらない言葉に思わずきょとん。としてしまうが、遊真くんはそんな私の顔を下から覗き込むようにしてじっ、と見つめる。


「……会いたかった。って」

「??」

「他のヤツにも、言ってたりする?」


パチクリ、と目を瞬かせるが、遊真くんの視線は逸らされない。まるでその目は何かを探るように、じいっと私を見つめ続ける。

再びじわじわ、と熱が顔に集まるのを感じながら、ぁ、と震える声をなんとかしぼりだす。


「ゆ、遊真くんだけだよ…。」

「ほぅ。」


「あ、会えなくて寂しくなるのも、会えたらドキドキして嬉しくなるのも、ぜんぶぜんぶ、遊真くんだけだよ…。」

「………そう、か。」


すっ、と遊真くんの体が引かれ、顔を逸らされる。

その意外と塩な対応に、ゆ、勇気を出して言ったのに…!と少しショックを受けるが、遊真くんは依然として顔を逸らしたままだ。


「……今のは、」

「え…?」


「…なんでもない。」

「えぇっ!!なにそれ、ずるいよ遊真くん!!」


「……ユキちゃんのほうが、ずるい。」

「わ、わたし!?」


少し拗ねたような言い方をする遊真くんが珍しくて、つい慌ててしまうが、つーん。と素っ気なくなってしまった遊真くんの機嫌を直そうと奮闘した。

















口を3の文字にし顔を逸らすと、慌てておれのキゲンをとろうとするユキちゃん。

べつにユキちゃんは悪くないのだけれど、おれだって予想外だったのだ。許して欲しい。


いくらウソが見抜けるといっても、ウソを見抜いて真実を知るのと、包み隠さず真実を言われるのとでは、天と地の差なのである。もちろん後者の方が断然嬉しいし、その分気恥ずかしかったりする。

ユキちゃんはその微妙な違いを理解していないのだ。きっと、おれのサイドエフェクトのことは知らなくても、どうせバレるなら、くらいにしか思っていないのだろう。


(…いくらユキちゃんがかわいい反応するからって、からかいすぎるのも間違いだったな…。)


結果。ただでさえ素直なユキちゃんが、さらに素直になり、心臓に悪いくらいだ。


自分の身の程は知ってる。無責任なことはしない。

それはいつだって揺るがない、はずなのに。


(…あんまり揺さぶられるのも、困ったものだな。)


心の中で一つ、ため息をついてから、ユキちゃん。と呼んで目線を合わせると、嬉しそうに微笑むのが見えた。


おれに向けるその笑顔は、いつだってかわいいと思う。





「…ユキちゃん、模擬戦しよう。」

「うん!!わ、あのとき以来だね!!今回は、もっと遊真くんを楽しませるから!」

「おっ、楽しみだな。」




その先は、考えることをやめた。



[ back to top ]