24
「………!!!」
視線の先には、白いふわふわ。水色の隊服。
名前を呼ぼうとするが、その姿は他の隊員に隠れてすぐ見えなくなってしまう。慌てて追いかけ、手を伸ばす。届いた。
「おっ、…と?」
「ゆ、遊真くん!!!」
いきなり手を掴まれ、後ろにくんっ、と引っ張られた遊真くんは、その大きな瞳を丸くさせ、少しだけ驚いたようだ。
その目に私が映った瞬間、ほわ、と気持ちが暖かくなる。
「ユキちゃんだ。久しぶり。」
「ひ、久しぶりだね!!」
ニコ。と笑う遊真くんに、はにかみながら挨拶する。ほ、本物の遊真くんだ…!と嬉しい気持ちがたくさん溢れてくる。ダメだ、好きの気持ちが止まらない…。
「……どうかしたのか?」
「えっ。」
「だってほら、これ。」
これ、と目の高さまで持ち上げられたのは、私が掴んだままの遊真くんの手。慌ててその手を離した。
「おれに何か、急ぎの用?」
コテン。と首を横に倒し、不思議そうに聞かれる。当たり前だ。でなきゃ普通、手を取って相手を止めるなんて、そうそうすることではないだろう。
「ゆ、遊真くんに、」
「うん。」
「…あ、会いたかった、の。」
「………。」
「それだけ、です…。」
きっと、今の私の顔の色を聞いたら、全員がりんごの色。と言うだろう。つまり真っ赤だ。
体は時が止まったかのように固まってしまったのに、頭の中は後悔の嵐が渦巻いていく。
あああ、どうして私はいっつも考えずにまず言葉にしちゃうんだろう、何回同じ間違いをしたことか、いいかげんに反省しないと、ぐるぐる思考が混乱してくる。
「……おれも。」
「え、」
「会えて嬉しいよ。ユキちゃん。」
「……〜〜〜っっ!!!」
ニコリと、なんだか微笑ましいものを見る顔でさらりと言われてしまえば、思わず手で顔を覆ってしまう。なにこれなにこれ、すっごい恥ずかしい。けど、嬉しい…。
「ご、ごごごめんね、私も、何言ってんだろほんと、口が緩いってゆうか、もう、な、なんか、うぁ…。」
「まてまてユキちゃん。おれは責めてないぞ。素直なとこはユキちゃんの良いところだろ?おれも嬉しいよ。……ただ、素直すぎて、ちょっと心配になるけど。」
「??…心配、って?」
思いもよらない言葉に思わずきょとん。としてしまうが、遊真くんはそんな私の顔を下から覗き込むようにしてじっ、と見つめる。
「……会いたかった。って」
「??」
「他のヤツにも、言ってたりする?」
パチクリ、と目を瞬かせるが、遊真くんの視線は逸らされない。まるでその目は何かを探るように、じいっと私を見つめ続ける。
再びじわじわ、と熱が顔に集まるのを感じながら、ぁ、と震える声をなんとかしぼりだす。
「ゆ、遊真くんだけだよ…。」
「ほぅ。」
「あ、会えなくて寂しくなるのも、会えたらドキドキして嬉しくなるのも、ぜんぶぜんぶ、遊真くんだけだよ…。」
「………そう、か。」
すっ、と遊真くんの体が引かれ、顔を逸らされる。
その意外と塩な対応に、ゆ、勇気を出して言ったのに…!と少しショックを受けるが、遊真くんは依然として顔を逸らしたままだ。
「……今のは、」
「え…?」
「…なんでもない。」
「えぇっ!!なにそれ、ずるいよ遊真くん!!」
「……ユキちゃんのほうが、ずるい。」
「わ、わたし!?」
少し拗ねたような言い方をする遊真くんが珍しくて、つい慌ててしまうが、つーん。と素っ気なくなってしまった遊真くんの機嫌を直そうと奮闘した。
口を3の文字にし顔を逸らすと、慌てておれのキゲンをとろうとするユキちゃん。
べつにユキちゃんは悪くないのだけれど、おれだって予想外だったのだ。許して欲しい。
いくらウソが見抜けるといっても、ウソを見抜いて真実を知るのと、包み隠さず真実を言われるのとでは、天と地の差なのである。もちろん後者の方が断然嬉しいし、その分気恥ずかしかったりする。
ユキちゃんはその微妙な違いを理解していないのだ。きっと、おれのサイドエフェクトのことは知らなくても、どうせバレるなら、くらいにしか思っていないのだろう。
(…いくらユキちゃんがかわいい反応するからって、からかいすぎるのも間違いだったな…。)
結果。ただでさえ素直なユキちゃんが、さらに素直になり、心臓に悪いくらいだ。
自分の身の程は知ってる。無責任なことはしない。
それはいつだって揺るがない、はずなのに。
(…あんまり揺さぶられるのも、困ったものだな。)
心の中で一つ、ため息をついてから、ユキちゃん。と呼んで目線を合わせると、嬉しそうに微笑むのが見えた。
おれに向けるその笑顔は、いつだってかわいいと思う。
「…ユキちゃん、模擬戦しよう。」
「うん!!わ、あのとき以来だね!!今回は、もっと遊真くんを楽しませるから!」
「おっ、楽しみだな。」
その先は、考えることをやめた。