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「か、勝った!!!カゲ先輩、私がんばりましたよ!!」
「あ"ぁ?勝ったっつっても、9対1だろーが。こんなんで喜んでんじゃねーよ。」
「あぅ、いたた…で、でも、1勝は1勝ですからね!!今度、ご飯奢ってください!!」
デコピンされたおでこをさすりながら、少し得意げにカゲ先輩を見つめると、「…お前、空閑に似てきたな。」と言われ、ドキリとする。
「空閑にはもーちょい勝てるようになったのか。」
「え。」
「?…空閑とはバチバチやりあってんじゃねーのか?」
「いや、あのとき以来、対戦してないです…。最近、中々会えてませんし…。」
「そーかよ。ま、なんでもいいけどな。じゃ、俺、隊室戻るわ。飯、今度連れてってやるから空けとけよ。」
「は、はい!!ありがとうございました!!」
お辞儀をしてカゲ先輩を見送ってから、少し考える。
そういえば、あの日から一度も遊真くんと会ってない。
ちょうど学校も授業がないので行かなくてもいい時期に入り、ボーダーで会えないと本当に接点がなくなってしまう。
やるべきことがたくさんあって、それを一生懸命やって、そんな生活を送ってたから気づかなかったけど、
「…遊真くんに、会いたいなぁ……。」
気づいてしまうと、案外寂しいものだ。
キョロ、とブース内を見渡す。もちろん遊真くんの姿はない。
(…探してみたら、意外と会えたり?)
そんな考えが頭をよぎり、ボーダー内を探索してみることにした。
後から考えるとバカなことをしてる、だなんて、すぐわかることだったのに、そのときの私は、そのことにすぐに気づかなかった。
「……いないな…うん、」
はぁ、とため息をつき、人気の少ない通り道で座り込んでしまう。
こんなことしたって、会えるはずないのに。第一、今日ボーダーに遊真くんが来ているとは限らないのだ。なのになんで、こんなに、
気力が、落ちてしまう。
(がんばれない……。)
「おい、嬢ちゃん。どうかしたのか?」
「…??」
ゆるやかに顔を上げると、帽子の下から覗く切れ長の目つきに、少しびっくりする。けれど、心配されていると理解してから、「だ、大丈夫です。」と答える。
「そうか。」と聞こえたので、また顔を伏せようとするが、帽子の人が立ち去る気配はしなかった。
「じゃあ、大丈夫なお前は、ここで何をしてるんだ?」
「……え。」
思わずバッ、と見上げると、今度はニヤリと笑う口元が見えた。思わぬ展開に言葉が詰まってしまう。
「俺に話してみろよ。知らないヤツの方が、案外話しやすかったりするもんだろ?」
「……そ、そんな、大層な話じゃないんです、お時間とるのも申し訳ないくらいで…。」
「大層な話じゃないかどうかは俺が決める。」
「え、えぇ……。」
「横暴だ…」と呟くと、「悪いな。」と小突かれた。いてて。ちょっと強引だけど良い人だな。というのがすごく伝わってくる。
「その、最近、会えない人がいて、少しだけ寂しくて、」
「なんだよ。好きなヤツか?」
「うっ、ぁ、……そう、です…。それで、私はその人にいつも元気というか、がんばる気持ちをもらってたようなものだったので、なんだか、モチベーションが下がってしまって、…すいません。それだけなんです。」
「ソイツに会えねぇのか?」
「学校は今、授業ないですし、ボーダーでも最近会えなくて…、」
「へぇ、ボーダーにいるんだな。」
「…!!!」
か、からかわれる…!と、それ以前に随分とネタを提供していたくせにハッと思い、隣を向くと帽子の人は少し考え込んでいて、なんだかその真剣な様子に少しだけ拍子抜けしてしまう。
「もしかしたら、俺の知り合いかもな。そしたら…「…荒船?」
「鋼じゃねぇか。」
ひょこり、と現れたのはまさかの鋼先輩で、「鋼先輩。」と呟くと帽子の人で隠れていた私に気づき、「一ノ瀬。」と声をかけてくれた。
「2人は知り合いだったんだな。」
「いや、今ここで会った。お前、一ノ瀬って言うんだな。」
「は、はい。一ノ瀬ゆきです。よろしくお願いします…というか、もうすでにお世話になってます、荒船先輩…。」
「?…どうかしたのか?」
「一ノ瀬が、会いたいヤツがいるんだとよ。」
「ちょ、荒船先輩…!!!」
鋼先輩は、わかってしまうから…!と言う前に「あぁ。」と声が聞こえ、体が凍りつく。
「もしかして、空閑のことか?」
「…は?空閑?そうなのか、一ノ瀬。」
「………。」
「空閑ならさっきまで一緒にいたぞ。まだ、ロビーにいるんじゃないか?」
「ほ、ほんとですか…!!」
「おう、よかったじゃねぇか。」
「行ってこい。」と、くしゃりと頭を撫でられる。少々荒っぽいその動作に、少しだけ笑ってしまう。
「荒船先輩。」
「なんだよ。」
「声かけてくれて、ありがとうございました。今度会ったら、仲良くしてください!」
「…いいぜ。お前も、こんなとこで下向いてないで、がんばれよ。」
「はい!!」
すっ!と立ち上がり、荒船先輩と鋼先輩に頭を下げてからロビーに向かって走った。
遊真くん、まだいるかな…!!
「…アイツ、少し前にお前が笑いながら言ってたヤツだろ?」
「あぁ。おもしろいだろ?」
「そうだな。なんつーか、すげぇ素直だよな。」
そんな会話がされていたとは知らず、ロビーに到着した私は、遊真くんををキョロキョロと探していた。