ずっと前から好きでした!私と模擬戦してください! | ナノ
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「おれは玉狛支部の実力派エリート、迅悠一!よろしくな〜。」

「あ、わ、私は本部所属の、一ノ瀬ゆきです!よ、よろしくお願いします。」

「うんうん、駿から聞いてるよ。いや〜かわいいな〜。玉狛のみんなとも馴染んでるみたいだし…。よければウチ、泊まってかない?」

「えっ!?」

「おっ、それは楽しそうだな。おれは賛成。」

「わたしも〜!!着替えは私の貸すから、心配しなくていいよ〜!!」

「で、でもさすがに…。」

「ゆきちゃん、さすがに急なことだし、無理にとは言わないけど、今日はここに泊まっていった方がいい。…おれのサイドエフェクトがそう言ってる。」

「…?迅さんの、SE…?」

キョトン、と迅さんを見つめると、小南先輩がはぁ。とため息をつく。

「迅のSEは、少し先の未来が見えるのよ。急に泊まれだなんて、…どーもあやしいと思ったら…。…悪いことは言わないわ。今日は親御さんに連絡して、ウチに泊まってったら?」

「…そうだったんですか、…理由があるなら、そうしてみます。」


「おっ、いいね!!」と迅さんが笑顔になる。玉狛の人達も、迅さんのこういった発言には慣れているようで、部屋は、ごはんは、とスムーズに物事が進んでいくのをポカンと見ていた。


少しだけ不安を抱えていると、両隣からぽん、と背中を叩かれた。

「あんしんしろゆきちゃん。なにかあったらおれがまもってやる。おれのおヨメさんこうほだからな。」

「迅さん、ウソは言ってないから大丈夫だよ。……ようたろう、…生意気だな。ちょっとこっちこい。」

おとなしく遊真の元に行く陽太郎くんに容赦のないチョップを繰り出す遊真くん。なんだか気分が軽くなり、ふふ。と笑みがこぼれてしまう。

深く考える必要なんて、ないかも。と、少しだけ安心感を感じた。


そのまま追いかけっこになってしまった陽太郎くんと遊真くんを笑いながら見つめていると、いつのまにかわたしが座るソファの背から身を乗り出していた迅さんも笑いながらそれを見守っていた。


そんな優しい目をした迅さんが耳元で発した言葉は、とても衝撃的で、私の体は瞬く間に硬直した。

安心感、だなんて、ウソだ。





「遊真のこと本気で好きなら、今夜10時屋上においで。……待ってるよ。」





そして、ごく自然に離れていく迅さん。振り向くことは出来なかった。

今日はイレギュラーなことばかり起こる。と思っていた。けれど、実は全て、迅さんの手のひらの上で起こっていたことだったのかな。なんて、馬鹿なことを思った。


確実に、今までの何かが変わってしまう。

その予感を胸に、玉狛での少ない時を過ごした。















ギィ…。

「お、ゆきちゃん。来てくれると思ったよ。…ごめんな〜。今日会ったばかりなのに、あんなことして。相当びっくりしたろ〜。」


えっ、と裏返った声が出てしまう。
もっと真剣な雰囲気かと思って身構えていたけど、迅さんは通常運転のようだ。


ポカン、と迅さんを見つめていると、ニヤ、と少し揶揄うような表情になる。あ、この顔、見覚えが…。


「遊真のこと、本当に好きなんだな〜。いや〜、青春青春。ほんと、こんなとこで会えると思わなかったからな〜…。」

「あ、あの!!よ、用事って、なんですか、わ、私をからかうために呼んだんですか…?」


顔を火照らせながら言い返すと、ごめんごめんと笑いながら返された。こ、この人わかんない…!!と若干涙目の私。誰か助けてください…。



「…おれさ、遊真には、出来るだけ、楽しい時間を送ってほしいんだよ。」


「…え、」



「だからゆきちゃん……。おれの代わりに、暗躍、してみない?」


「……!?!?」





思い起こされるのは、先ほど栞さんと小南さんと、借りる部屋の掃除をしていたときのこと。


「…にしても、ウチに泊まるとなにが起こるんだろうね〜。」

「は、はい。私もすごい気になります…。」

「どーせ、またなんか見たんでしょ。…ゆき、アンタ迅に目、つけられてるみたいだから言っとくけど、気をつけなさいよ。」

「…?」

「アイツの趣味……暗躍だから。」







ごく、と唾を飲み込む。

「どう?もちろんケガなんかしないし、まあちょっとした極秘任務って感じ?……あ〜〜、そんな緊張しないでよ。大丈夫だから。それに……。」

「……?」

「きっとゆきちゃんにとって、大事なことだと思うから……そう思ったから、ここに来てくれたんだろ?」


「………。」




さっきから、ついていけないことばかりだ。

急速に進む未来に置いてかれっぱなしで、自分が何をして、何を選べばいいのか、わからない。検討もつかない。

けど、



それでもここに立っているのは、私が遊真くんを、好きだからだ。


それだけは、私があの日、ボーダーでがんばるんだって本気で決めた日から、何も変わらないから。




「あ、暗躍…、…わたし、やってみます…!!」



迅さんの表情が、柔らかくなったように見えた。



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