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「…なんだ、さては、おれにほれたか?」
「…っ、か、かわいい…。」
思わずその小さな体をぎゅっと抱きしめる。
や、やってしまった…と抱きしめたあとに後悔がつのるが、「おれもつみなおとこだぜ…」と本人はまんざらでもなさそうだったので、そのままぎゅう、と抱きしめ続けた。
ここは、ボーダー本部、ロビーの自販機の前。
飲みものを買おうと立ち寄ったその場所に似合わない、ちっちゃな男の子と、カピバラがいました。
「おれはたまこましぶいちのボーダーたいいん、りんどうようたろう。こっちは雷神丸だ。」
「ようたろうくんね。私は一ノ瀬ゆき。最近B級に上がったんだ。よろしくね。」
小さな手をきゅっとにぎり握手をする。
手、ちっちゃい…!かわいい…!!ときゅんきゅんが止まらない私。こんな弟ほしかった…。
「…ん?玉狛、って言った?」
「あぁ、おさむやゆうまはおれのこうはいだ。ちかちゃんはおヨメさんこうほ。ゆきちゃんも、おれのおヨメさんになりたいのか?」
「えっ、ど、どうしよっかな〜〜。」
「えんりょはいらないぞ。よし、今日からゆきちゃんもおれのおヨメさんこうほだ。ひびしょうじんしてくれ。」
「あ、あはは…。」
ま、まさか遊真くんの先輩だなんて、思いもしなかった…!!遊真くんに、ようたろうくんのお嫁さん候補になったなんて知られてしまったら…と少し悩んでしまう案件だ。冗談で済めばいいけど…。
「なんだゆきちゃん、元気がないな。」
「そ、そんなことないよ?ちょっと、先行きが不安になっただけで…。」
「よし、おれについてこい。」
「へっ、よ、ようたろうくん、保護者の方は…あっ、雷神丸に乗った!?は、はやい、ちょ、待って、ようたろうくん!!」
こんな小さい子、1人にしちゃダメだ!!と慌ててようたろうくんと雷神丸についていく。どこに行くのかは、わからない。
「…はぁ〜〜。ほんと、あのおこさまは…。」
「あっ、迅さんだ!!!珍しいね!!どうしたの?暇なら俺と模擬戦しよ!!ね、迅さん迅さん!!」
「駿、悪いな。たった今用事が出来たとこなんだ。この辺で、おこさまとカピバラ見なかったか?」
「?…あー!そのチビなら、さっきまでゆきちゃん先輩と喋ってたよ!!ちぇ、俺がゆきちゃん先輩と話したかったのになー。」
「ゆきちゃん?んー…。よし、探してみるか、ありがとな。駿。」
「えーっ!!迅さんまで行っちゃうの!?」
「はっはっは、悪いな。実力派エリートはいつだって多忙だからな〜。」
自分を特別慕ってくれている後輩にお礼を言い、本部の出口へ向かう。さあ、どこから探そうか。
「…"ゆきちゃん"が気になるところだな……ったく、あんまり迷惑かけるなよ、陽太郎〜。」
「とうちゃくだ。はいっていいぞ。ゆきちゃん。」
「お、お邪魔します…。」
連れてこられたのはなんと、かの有名な玉狛支部。遊真くんや三雲くんの所属している支部だ。
私、入っていいのかな…と思いつつ。ようたろうくんにオッケーもらったし、と好奇心には勝てず、その門をくぐった。「かえったぞ!しおりちゃん!!」とようたろうくんが大きな声を出すと、奥の方から、足音が聞こえてきた。
「おかえり陽太郎!…あれ、アンタもしかして、迅さん置いてきたでしょ!!……ん?あれ、お客さん!?」
「は、はじめまして。本部所属の、一ノ瀬ゆきです。その、ようたろうくんについてきたらここに辿り着いていて…す、すぐ帰ります。お邪魔しました、「あああ待って待って!!美味しいたい焼きあるから、食べてって!ほらほら、遠慮しないで上がって上がって!」
「は、はい!」
「そうだぞゆきちゃん。えんりょするな。」
「こーら!どうせ陽太郎が無理言って連れてきたんでしょ!ほんとごめんね、ゆきちゃん。うちのおこさまが…。アタシは宇佐美栞。好きに呼んでくれて構わないからね!」
「あ、ありがとうございます。栞さん。」
「うんうん!もうすぐみんな帰ってくるから、もっと楽しくなるよ〜!」
もう充分楽しいけどな、とほっこりした気持ちを胸にしまい、栞さん、陽太郎くん、雷神丸の後をついていく。
この小さな出会いが、私のこれからを大きく変えるだなんて、今の私は想像もしていなかった。