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あああ大口叩いてしまった…鋼先輩もカゲ先輩もびっくりしてるよ…だれか助けて…私がノリノリで煽ったせいで遊真くんの目、もうめちゃくちゃ捕食者の目ぇしてるよ…もうやだ…私の初恋の人かっこよすぎてツライ…。
「うぜぇ、不安そうな感情寄越してくんじゃねーよ。テメェで言い出したことだろーが。」
「だってだって、だってぇぇぇ、つい……。」
「ハァ…俺との対戦蹴ったんだ。空閑が相手とはいえ一勝はしねーとぶっとばすかんな。」
「……一勝は、します。もぎとってきます。」
「オラ、さっさといけや。鬱陶しい。」
[何本勝負にする?ユキ。」
[あ、あの、遊真くん…]
[ん?どうした?]
[その、は、恥ずかしいから、まだちゃんづけで呼んでください…。]
[??…そうか?まあいいけど、]
[あ、5本、でお願いします…]
[ユキちゃん、さっきの威勢はどうしたんだ?勝とうと思わないと戦いには勝てないぞ?]
[…うん、それは大丈夫。…よろしく、遊真くん。]
「へぇ…。」
[転送、開始。]
「行くぞ、ユキちゃん。」
「…うんっ!!」
最初のこの試合、まだトリガー構成がわれてないこの試合で、絶対一勝もぎとる!!
(まずは様子見か…弧月。機動はおれの方が上だな。それなら…)
「旋空弧月!」
「おっと、!?」
(弧月を持ってない…どういうことだ?……仕掛けるか。)
ブゥン
(グラスホッパー!!今だ!!)
「マンティス!!」
「!?」
[トリオン供給機関破損。空閑、緊急脱出。]
ドサッ
何が起こったか、珍しく遊真は理解が遅れた。
(いきなり1ポイントとられた……旋空を上に避けさせて、空いた距離を詰めるためスコーピオン片手に、グラスホッパーを出す瞬間。…シールドを張れない一瞬を確実に狙われた。相手はおれのトリガー構成を知ってる。おれの動きを知ってる。)
ただ、おもしろい女の子だと思っていた。
かわいいところがあって、仲良くなれそうだと、
それだけであった、はずだ。
「…やってくれるじゃん。…ユキ。」
[5本勝負、4-1、勝者、空閑。」
「あ、遊び相手にもならなかった…つらい…。」
「最初の一手は驚いたけどな。」
「ま、空閑に一勝できただけいーんじゃねぇの。動きも悪くねぇ。空閑は速えーからな、考えて足止まった瞬間頭吹っ飛ぶぞ。」
「はい、ほんとにその通りです…遊真くん相手にしてみたいことが多くて、つい考え込んでる内にスコーピオンでスパッ、て感じでした…記録で見るより、断然速かったです…」
「もう一戦挑んできたらどうだ?」
「…ユキちゃん。」
「ゆ、遊真くん。」
その顔は、ニコニコと楽しそうだ。
「ユキちゃん、狙撃手よりも絶対攻撃手の方が向いてるよ。…楽しかった。また、遊ぼうな。」
すっ、と手を差し出される。
"楽しかった"
その一言で自分の心が晴れやかになるのが分かった。
やばい、口角上がっちゃう…!
まだまだ努力が足りないけど、がんばってよかった。少しでも遊び相手になれてよかった。…一本取れて、嬉しかった。
遊真くんに出会ってから、本当に毎日が楽しいの。
遊真くんの手を両手でとり、思わず照れてしまう。
今の私、きっと最高に幸せだ。
「っ、うん!!私もっと、もっと強くなるから!!遊真くんのために、遊真くんをもっと楽しませれるように、強くなるからね!!!成長したらまた模擬戦してください!!」
ぴく、と遊真くんの身体が一瞬凍りつく。
その大きな瞳が目一杯開かれた後、すぅっと細まった。
綺麗な赤色の瞳に見つめられてしまえば途端に頭が真っ白になる私。かっこよさの限界を超えて変な色気まで垂れ流しはじめた遊真くんに私の脳みそは限界を迎えはじめ、カゲ先輩、鋼先輩にSOSを送るも何してんだコイツ。というような目で返された。
遊真くんの両手が、きゅっと私の両手を握りしめる。
「…へぇ、おれのため?…ずいぶんな殺し文句だな、ユキちゃん。」
もう死んでしまうんじゃないかと思った直後、自分が先ほど熱烈に語った言葉がフラッシュバックしてきた。
「……っ、へ、ぁ、あ、!!!あっ!!!え、うそ、ちがう、ちがうの…!!そんな、やましい意味じゃ…!!」
「ユキちゃん、かわいいウソつくね。」
「っう、うそじゃないもん!!、ゆ、遊真くんのばか!!ただ、その、ゆ、遊真くんを楽しませられたならよかったなって、思って、嬉しかっただけで、その、!」
「はいはい。また模擬戦しような。」
「〜〜〜〜っ!!!」
本当に死んでしまう、だれかたすけて…!!!
もう一度SOSを送り、この嬉し恥ずかしい気持ちがカゲ先輩を包み込みカゲ先輩がブチ切れるまで、あと少し。
ずっと前から好きでした!私と模擬戦してください!
完