novels | ナノ

04



夏休みという長期休暇が終わって新学期を迎えた。
クラス内は久しぶりの再会と休み中の思い出話で賑やかだ。
始業式も終わってHRも終わった。
今日は授業もないし、これで終了だ。
帰ろうと思って鞄を手にしたらクラスメイトの女子に引き止められた。
なんだか随分と興奮気味だが、何があったのだろう。

「みょうじさんみょうじさん!呼んでるよっ、呼ばれてるっ!」

「あんなにカッコイイ人といつ知り合ったの?!羨ましい…!」

カッコイイ知り合い?
そんな知人いただろうかと首を傾げた。
とにかく行ってみれば分かるかと、クラスメイトに礼を言って私を呼んでいる人がいるという廊下に出た。

顔に出てしまわなかっただろうか。
私を呼ぶカッコイイ人とやらの姿を見て硬直してしまった。

「君、みょうじさんっていうんだね。君のバイト先で食事した事あるんだけど、覚えてないかな?」

覚えているかと言われても、昨日の来客だ。
印象に残る二人だったし、何より紫原の連れだ。忘れはしない。
室ちんと呼ばれていた人だ。
確かに格好良い。
というか、格好よすぎるくらいだが、知り合いではないはずだ。
どうして彼がここに?
何故私の事を知っているのだ。
謎しか浮かばなかった。

「昨日いらしてくださいましたよね、覚えてますよ。ご来店ありがとうございました。それで、私に何か?」

「これを届けに来たんだ。落として行ったから」

彼の制服のポケットから出てきたのは私の学生証。
身分証明になるので持ち歩いていたのだが、どうやらバイト先で落としてしまっていたらしい。
それを彼が拾ってくれたようだ。
落とした事に全く気付いていなかった。危なかった。

「すみません。届けていただいてありがとうございます」

心からの礼をした。
とても有り難い。
紛失していたら大変だった。
あまり関わりたくなかったのでつんけんした気持ちがあったが、これは改めなければならない。
いい人ではないか。

「どういたしまして。ちゃんと渡せてよかった。また食べに行くから、よろしくね」

笑顔を浮かべて去って行く彼を綺麗だと思った。
本当に、なんて綺麗な人なんだろう。
動くのも忘れて小さくなっていく背中を見つめていると、クラスメイトに質問攻めにされた話はまた別の機会にしよう。