novels | ナノ

03



夏休み半ばにもなると、バイトにも少しずつ慣れてきていた。
まだまだ覚えなければいけない事は沢山ある。
もっと頑張らなければ。
それでも休みも終わりに近付くと、出来るようになった仕事は入社当時より遥かに多く、雑用から入った仕事も今ではレジまで任される事が多々ある。
任される仕事が増えているという事は、少しずつ成長しているのだと思いたい。

夏休みも終わるそんなある日。
いつも通りいらっしゃいませとお客様を歓迎した笑顔が引きつるかと思った。
手足の長い彼はたった数歩でレジ前までやってきた。
紫原敦、彼だった。
こうして対面するのは初めてだ。
大きいの一言に尽きる。
それしか言葉が出てこない。
学校ならそれでいいかもしれないが、ここは仕事先だ。
そうはいかない。

「いらっしゃいませ。ご注文をお伺いします」

可能な限りにこやかにマニュアル通りの接客を心がけた。
そうか、これを営業スマイルというのか。
一つ賢くなったようだ。

「えっと、チーズケーキ5個にポテトLサイズ1個。それからコーラLサイズー。室ちんはー?」

お客様、オーダーの量をお間違いではございませんか。
お菓子が好きだと聞いてはいたが、まさかこれほどとは。
オーダーを聞いただけで胸焼けしそうだ。

ところで室ちんとは一体誰だろうと紫原から目線を隣に移す。
どうやら二人で食事に来たらしい。
制服姿という事は学校帰りで、紫原と同じ制服を着ているという事は同じ陽泉の生徒だ。
休みにも関わらず制服を着ている理由は、多分部活だろう。
つまり室ちんと呼ばれた彼もバスケ部という訳だ。
紫原と並んで立つとそうは見えないが、私が見上げなければならないくらいに彼も背が高い。
紫原ばかりに目がいって彼に気付かなかった。
彼を見るととてつもなく容姿がいい。
これが美形だと教わっている気分だ。
私の幼馴染みも綺麗な顔立ちをしているが、これは相当モテそうだ。

「俺はポテトのLとウーロン茶のM」

すらっとしているのに彼もよく食べるようだ。
二人してLサイズのポテトを買うとは思わなかった。

「かしこまりました」

見惚れて手を止めている場合ではない、仕事をしなければ。
会計を済ませて食事を提供した。
テイクアウトではなかったので、店内で食べて行くらしい。

「みょうじさん、時間だから上がって」

紫原が来店してから数十分、本日の仕事はこれで終了だ。
お疲れ様でしたと挨拶をして更衣室へ下がり、お先に失礼しますと断りを入れてバイト先を後にした。
ちらっと見てみると、あの二人はまだ居座るらしい。
これといって特に何事もなく終わってよかったと胸を撫で下ろした。