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番外04



いつかの母の計画が実行された。
進学祝いだそうだ。
進学祝いといっても、みょうじ家を交えての食事会だ。
おかげでなまえと会える事になった。
会うのはこれが最後になるだろう。
母に少し感謝した。
京都へ行く前に会っておきたいと思っていたから都合がいい。
この不可解で訳の分からない気持ちと折り合いをつけるには、なまえと会わないとどうにもならないと思った。

結局ただ別れを前にして感傷に浸っているだけだと結論付けた。
きっときっぱりと別れを告げればすっきりするはずだ。
帰ろうとしていたなまえを引き止めて、騒がしいダイニングを離れ部屋へ招いた。

「明日行く」

早速本題に入ると、食後にと手渡した茶に下ろしていた目をこちらに向ける。
しばらくの間を置いてなまえが小さく笑った。

「私はなんの心配もしてないよ。だって征十郎だし」

「どういう意味だ、それは」

意味が分からない。
そもそも心配していたというのか。
俺の一体何を心配していたというんだ。
これからの生活か?
そんなもの心配など全くしていないくせに何を言い出すのだこの幼馴染みは。
親に感化されたか。

「頼れる幼馴染みですから。心配なんてしてないよ」

嘘ばかりだ。
なまえが俺を頼ってきた事などない。
明らかに困っているのに頼る事をしないから、気付く度にいつも俺が声をかけていた。
それを頼れるというのなら間違っている。
お前はもう少し人を頼るべきだ。
何が心配だ。
心配なのはなまえじゃないか。
両親と離れ、俺の傍さえ離れて一人でやっていけるのか。

「俺は心配だらけだ」

「え?」

「なまえが心配だ」

なまえを見る目が揺れた気がした。
また何を言っているのだろう。
これではまるで頼ってほしいみたいではないか。
俺の幼馴染みだ、何も問題ないだろう。
心配など、茶番だ。
いや、心配な事なら一つだけあったな。

「なまえは面倒臭がりだからな。飢え死ぬなよ?」

口端で笑ってやった。
なまえは自分の事になると途端に物臭になる。
他人第一、自分は二の次なのだ。
面倒臭がって食事を抜く様子が容易に想像出来た。
これも直した方がいい所だろう。

「そういう征十郎こそちゃんと食べなよ?ゼリー飲料で済ませないように」

まさか言い返してくるとは思わずむっとした。
そんな事はしないと言い返せないのが悔しい。
なぜなら、食事を疎かにする自分の未来が予想出来たからだ。
カロリー摂取はきちんとしていると反論しようと思ってやめた。
その程度ではまた言い返されるだろう。
むすっとしたらなまえに笑われた。
まさか俺が言い含められるとは。
これも幼馴染みゆえだろうか。
そう思ったら俺までおかしくなってきて、つい笑みが零れた。

「今日会えてよかった」

やはり会えてよかった。
行く前に会って正解だったようだ。
なんだか心が落ち着いている。
心置きなく京都へ行ける、そんな気がする。

「元気でね」

「なまえもな」

これで別れだ。
明日俺はここを去る。
自分の道を歩む為に。

次にいつ会えるか分からない、遠地へ旅立つ我が幼馴染みよ。
達者であれ。