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番外02



クラスを覗いても幼馴染みの姿は見えなかった。
そういえば、こうしてなまえを訪ねるのは初めてな気がする。
なんだかキャーキャーと周りが騒がしいが、図書室にいるはずだと女子生徒が教えてくれた。
一言礼を言って目的の場所に向かえば、探していたその人はいた。
熱心に勉強しているようだ。
受験もすぐそこに迫っている、熱心にもなるだろう。
そうは分かっていても、真剣ななまえの顔を見て何故か優しい気持ちになる。
楽な自分でいられるようなそんな気がして、今それに気付くのかと自分に呆れた。

「隣いいか?」

一応聞いたが答えなんて関係なくなまえの隣に腰を下ろした。
あぁ、本当に久しぶりだ。
こうして会うのも、話すのも。

驚き混じりの顔をしていたが、顔を上げた幼馴染みは何一つ変わっていなかった。
それに対するこの安心感は一体なんだというんだ。

「どうしたの?」

「進学先が決まったから知らせておこうと思ってね」

こうして律儀に伝えに来る俺も結構な馬鹿だと自分で思う。
会いたくなったんだと素直に言えない自分も、本当に馬鹿だ。
そこまで分かっているのかは知らないが、突っ込んで聞いてこない幼馴染みに感謝した。
どうして、と俺が聞きたい。
最近の俺はどこかおかしい。
所々になまえの顔がちらつくのは何故だ。
お互いの進学が決まってから何か落ち着かない。
どんなに勉強しても、この理由ばかりは分からなかった。

「どこに決めたの?」

「洛山高校」

「洛山?」

分からないといったなまえの顔が、なんだかおかしかった。
昔から感情が表情に出やすい奴だ。分かりやすい。
ほんの一瞬開いた口を閉じかけた己を叱咤した。
これを言わずに何の為に来た。

「京都にある。なまえは陽泉に行くんだったな」

母親から聞いた情報を確認する意も含めて聞いた。
否と言われる訳もないのに、なんて愚かな。
それでも心の中で少し期待していたのかもしれない。
なまえは俺から離れていく事はないと。

「うん」

あぁ、愚かだ。
分かっていたはずなのに何故心が痛むのか。
ただの幼馴染みだ。
傍にいてもいなくてもなんら問題はないというのに、親と離れて暮らす事になっても何も感じなかったものをなまえに感じる。
この感情はなんだ。

京都と秋田。
距離にしておよそ647km。
数字や地図で見て感じるよりも、心の距離が出来たように感じた。
遠く秋田を思い浮かべる。

「秋田、か。遠いな」

何度思っても遠い。
進学したらそう会えなくなるだろう。
あと数ヶ月で別れがやってくる。
人生の別れでもあるまいし、決してこれが最後だという訳でもないというのに、まるでこれが最後のような錯覚に陥る。
もう会えない、そんな気がした。
それこそ馬鹿らしい。
けれど、笑い飛ばす事が出来なかった。

「そうだね」

静かに呟くなまえの声が、耳の奥でやけに響いた。