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番外01



全中が終わってから、それぞれの高校から進学の話を受けていた。
いわゆるスカウトというやつだ。
他のバスケ部レギュラーメンバーもきっとスカウトされているだろう。
選択肢がいくつかある中で、どの学校にするか考えてから暫く。
洛山高校へ進むと決めたのは、暦でいう秋だった。

「あらあら、征十郎も遠くに行っちゃうのね」

進学先を両親に相談して承諾を受けた日。
母親に寂しげに言われた一言に疑問を抱いた。
俺『も』とは、一体どういう事だろうか。
聞く限りでは親しい間柄の人が離れていくのだと予想出来る。
この家と親しいといえば、みょうじ家しか思い付かなかった。

「征十郎はもう聞いた?なまえちゃんね、秋田に行っちゃうんですって」

目を見開くかと思った。
動揺していると自分でも分かる。

俺には共に育った幼馴染みがいる。
みょうじなまえ、同い年の女子である。
産まれた時から同じ時間を過ごしてきた、家族同然の幼馴染みだ。
最近は部活も手伝ってあまり顔を合わせる事がなくなっていたが、今も変わりなく大切な人だと思っている。
そのなまえが俺の傍からいなくなるようだ。
進学しても近くにいると勝手に思い込んでいた。

冷静に考えれば当たり前の事だった。
俺には俺の、なまえにはなまえの進むべき道がある。
別れとは、遅かれ早かれ来るべき未来だったのだ。
それが今この時だというだけだ。
何を思う事がある。
そもそも何を勝手に思い込んでいたのか、俺は馬鹿か。

「そうですか」

平静を保って答えた。
心にかかった訳の分からない靄を無視したところで気付く。
最近本当になまえに会っていない。
最後に会ったのはいつだったか。
二人で夕食の席を共にしたのが記憶に一番新しい。
夕食といっても、冴えないコンビニ弁当だったのだが。

「みょうじさんに伝えなきゃだわ。送別会やらなくちゃ。あら、進学祝いの方がいいわね」

「母さん、なまえには自分で伝えるので少し待ってもらえませんか」

まだ合格した訳でもないのにこの母親は気が早い。
最も、落ちる気は全くしないのだが。
そう思った時には口をついて出ていた。
なにも自分で伝えなくてもいいだろうに、何をやっているんだ俺は。
自分で自分の感情が分からない。
ただなんとなく、本当になんとなく、久しぶりに幼馴染みの顔が見たくなった。