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本日のディナー会場は赤司家。
ダイニングでは酔いが回った父親達が盛り上がっている。
それを介抱しながら話を弾ませる母親達。
私達子供は居場所がなく、幼馴染みの部屋で寛いでいる。

そもそも、何故両家揃って食事をする事になったのかというと、私達が家を出る前に進学祝いをしようという両親からの提案が実行されて、こうして赤司宅にお邪魔している。
気持ちが嬉しくて、ありがとうと答えた私が悪かった。
私は自分の家で、自分の家族だけで祝ってくれると思っていたから是非と言ったんだ。
それがまさか、赤司と合同だとは思わなかった。
会わずに行きたかったのに、世の中思い通りにはならないものだ。
大人数で食事を共にするだけならまだしも、部屋に二人きりになるとは、予想外だった。
大人だけの空間が出来た時点で帰ろうと腰を上げたのだが、少し話さないかと幼馴染みに引き止められて今に至る。
断る理由が咄嗟に見付からず食後のお茶を頂いているのだが、心中穏やかではない。

「明日行く」

たいして大きな声でもないのにやけに耳に残る。
つまり、赤司に会うのは今日が最後という事か。
だから今日食事をしようと言い出したのかと納得した。

「私はなんの心配もしてないよ。だって征十郎だし」

「どういう意味だ、それは」

「頼れる幼馴染みですから。心配なんてしてないよ」

軽口の応酬も最後かと思うと楽しい。
楽しいけど、苦しい。
涙よ、どうか出てきてくれるな。

「俺は心配だらけだ」

「え?」

「なまえが心配だ」

何を心配するというのだ。
赤司を見ればいつも真っ直ぐな赤い目がゆらゆらと揺れていた。
どくんと、脈の音が聞こえた気がした。

「なまえは面倒臭がりだからな。飢え死ぬなよ?」

今の間は何だったんだ馬鹿野郎。
口の端を吊り上げて人をからかう赤司は全く以っていつも通り。
瞳が揺れているなんて、私の気のせいだったようだ。

「そういう征十郎こそ、ちゃんと食べなよ?ゼリー飲料で済ませないように」

私も大概物臭だが、赤司も食に関してはずぼらだ。
カロリー摂取していればいいという問題ではない。
言葉を返せないのか、黙り込んだ幼馴染みに勝ったとほくそ笑んだ。
ベッドに並んで座っているので、隣の気配が分かりやすい。
むっとしたのが伝わってきてまた笑った。
大人びた彼の表情を崩すのは難しい。
成功した時の喜びは大きいのだ。

「今日会えてよかった」

いきなり何を言い出すのか。
必死に耐えている涙を誘うような事を突然言わないでほしい。
泣くな。
泣くような事なんて何一つない。
例え泣いても、赤司を想って流す涙を本人に見られたくない。
笑え。笑うんだ。
笑顔で見送り、そして別れるのだ。

「元気でね」

「なまえもな」

次会う時は純粋に幼馴染みとして対面しよう。
こんなに素敵な想いをくれた我が幼馴染みに、心からありがとう。