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もうすぐ東京を発つ私は引越し準備に追われていた。
必要とする物だけを纏めて、後は現地調達する予定だ。
出来るだけ荷物は少ない方がいい。
その方が面倒もなく楽だろう。
片付いていく部屋を見渡して、今のうちに思い出の地を散歩しようと思い立った。
毎日歩いた通学路、卒業したばかりの学校、よく行ったコンビニ、昔遊んだ公園。
どれもこれも幼馴染みとの思い出が蘇る。
家族や友人ではなく、赤司を一番に思い出す私は相当彼が好きなようだ。
共に過ごしてきた日々にくすりと苦笑が漏れた。

そうなるだろうとは思ってはいたが、京都に向かう赤司も一人暮らしをするようだ。
聞けば彼の方が先に発つらしい。
みょうじ家も赤司家も子供達の門出にばたついていた。
おかげで幼馴染みにはずっと会えないでいる。
有難い事だ。
出来る事ならこのまま会わずに別れたかった。
一目でも赤司を見れば泣いてしまいそうだった。
未だ膨れ上がり続けるこの想いが涙として表れそうで怖かった。
早く秋田へ行きたいと心が急く。
誰も私達を知らない場所へ逃げたい。
心を整理しないと彼と向き合えそうになかった。

あと少しの辛抱だと自分を宥めた。
後でいくらでものどやかな秋田の空気に癒してもらえる。
澄んだ空気で深呼吸をして胸をいっぱいにするのだ。
そしてこの気持ちも澄んでしまえたらいい。
その為に私はこの道を選んだのだから。

目を閉じれば赤い髪と赤い目を持つ幼馴染みが浮かんだ。
彼を想う気持ちを育てたのが時間なら、彼を諦めさせてくれるのもまた時間だった。