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09



結論から言うと、私は無事合格した。
入試の為に遥々向かった秋田の冬は寒かった。
刺すような寒さのおかげで落ち着いて試験に挑めたのは感謝しているが、これから毎年体験するのかと思うと、冬が嫌になりそうだった。

滅多にない幼馴染みからのメールを開くと、進学決定の旨が記されている。
いちいち報告をしてくれるとは、相変わらず律儀な事だ。
これで赤司も京都へ行く事が決まった。
お互い無事に受験戦争が終わったようだ。
私が抱き続けてきた叶う事のないこの想いも、終止符を打つ事が出来る。
私も合格!と短い文章を送り返した。

あまりしないやりとりだからなのか、相手が赤司だからなのか、他愛ないメールの応酬が楽しく感じられた。
必死に抑えてきた心も別れを前にすると素直なものだ。
あと一ヶ月もないのだから、最後くらい、これくらい、赤司を想ってもいいだろう。
こんなに好きな気持ちがすぐに消えてくれるとも思えない。
きゅっと携帯電話を握る力がこもったその時、手の中にある電話が鳴り出した。
受信音かと思ったら着信音で慌てて通話ボタンを押した。
表示されていた相手の名前は幼馴染み。

『合格おめでとう』

受話器越しに聞こえてくる赤司の声に心が跳ねた。
好きだ、どうしようもなく。

「征十郎も、おめでとう」

『ありがとう』

ふっと吐息がかかる音がする。
あ、笑った。
電話の向こうにいる幼馴染みの仕種が容易く想像出来て私も笑った。

「わざわざ電話しなくても、メール返してくれたらいいのに」

『なんとなく、電話しようと思ったんだ。メールより早いしね』

またそうやって期待するような事を言う。
何度もうやめてくれと願ったか知れないが、今こうして心に余裕を持っていられるのは、きっと離れる事が決定づけられたからだろう。
どんなに想っても、私達の距離が縮む事はない。

「楽しみだね、高校生活」

会おうと思えば会うのは難しくなかった赤司とはもう会えない。
苦い恋だったが、楽しかったと過去を振り返った。
好きになれて、よかった。
心からそう思う。