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08



家の近くにある公園に幼馴染みと出かけていた。
公園には沢山のシロツメグサとクローバーが咲いて、それを見た幼馴染みが幸せを探そうと言い出した。

クローバーといったら三つの葉から成る植物だが、稀に四つ葉のクローバーがあるのだという。
幼いながらに博識な赤司が教えてくれた。
なんて素敵な話だと目を輝かせて、二人で座り込み日が暮れるまで探した。
どんなに懸命に探してもなかなか見付からなくて、泣きべそをかいた私を赤司は一瞬で笑顔にしてくれた。

「あったよ、見付けた」

泥だらけになった小さな手の中には四つ葉のクローバー。
泣きそうになっていた…というか、半分泣いていた私の涙は引っ込んで、珍しいクローバーを嬉々として見つめた。

「これで私たち幸せになれるね」

見つけ出してこの目で見れた達成感もあったが、何より手を汚して一生懸命探してくれた赤司の気持ちが嬉しかった。
顔まで土で汚した私は、にっこりと、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
赤司の顔にも笑顔があって、土だらけの私の顔を見て怒った母親のお小言なんて気にもならなかった。



ゆっくりと目を開くと辺りは真っ暗で、時計が示す数字は5。
そこは公園ではなく、自分の部屋だった。
なんだ、夢か。
懐かしい夢を見たものだ。
あれは確か、幼稚園に通っていた時の事だっただろうか。
あんなに仲が良かったのに。
あんなに一緒にいるのが当たり前のようになっていたのに。
こんなにも心苦しくなったのは、本当にいつからだっただろう。

五時だと起きるにはまだ早い。
二度寝しようかと思ったが、すっかり目が覚めてしまった。
せっかくの早起きだ。
朝の方が飲み込みがいいと聞くし、受験生らしく勉強しようかとベッドから離れた。
まだ開ききらない目を擦ると指についた水。
さすがに涎が目元につく訳はないし、なんだろうと考えてもう一度目元を触って確かめる。

涙だ。

幼い頃の夢を見て泣いたというのか私は。
それだけ彼を想っているいうのか、私は。

他にも思い出は沢山ある。
大切な思い出だ。忘れられはしない。
その思い出に蓋をして、私はいつものように机と向き合った。
本番は、すぐそこだ。