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07




「隣いいか?」

夏も過ぎて残暑が厳しい秋も過ぎた冬の始め。
風が肌寒くなってきていた。
昼休みには図書室へ来る事が日課となって、私は今日も静かなこの空間で、いつものように参考書と睨み合う。
夢中になっていた私にかかった声は、聞き馴染んだものだった。
それもそのはず。
かけられた声に顔を上げれば、そこにいたのは幼馴染み。
話すのはだいぶ久しぶりだ。
会う事が久しぶりなので当たり前なのだが。
その声とその姿に懐かしさを感じた。
それと同時に湧き上がる恋心に、まだ私はこの人が好きなんだと思い知らされて内心嘆息した。
一体どうして私の元に来たというのか。
許可なんて出していないのに、返事も聞かずに隣に座る幼馴染みに苦い感情が生まれた。

「どうしたの?」

わざわざ会いに来たのだ、何か私に用があるのだろう。
ならばさっさと用を済ませて去ってほしかった。

「進学先が決まったから知らせておこうと思ってね」

そんなのどうせ親から伝わる事になるのだ。
あえて言いに来なくても、と悪態をつきたくなったが飲み込んだ。
赤司は私の気持ちを知らないし、八つ当たりなんて醜い事はしたくなかった。
意図せずとも伝わるであろう事柄を、こうして知らせに来るくらいには好かれているのだと知って、また複雑な心境になる。
赤司の好きと私の好きは大きく意味が違うから。
想うのはやめると決めたのに、心が揺らぐような事はしないでほしい。

「どこに決めたの?」

私の勝手で汚い感情をおくびにも出さずに聞いた。
ここで不自然になる訳にはいかないので、素っ気なくするなんて出来なかった。
素っ気なくしたい訳でもない。
この感情をなくしたい。それだけだ。

「洛山高校」

部活で名声を上げた赤司の事だ、きっとバスケが強い学校へ行くのだろうと予想はついていた。
しかし洛山とは、聞いた事がない名だ。

「洛山?」

「京都にある」

京都。
修学旅行でしか行った事がない土地だが、地理ぐらい私にも分かる。
秋田と京都。
なんて遠いのだろう。
赤司から離れようと思っていた私には大変都合のいい事で安心したが、それとは裏腹に素直に喜べない自分がいた。
よかったじゃないか。
これで今後会う事はまずないだろう。
よかったんだ。これで、よかったんだ。

「なまえは陽泉に行くんだったか」

「うん」

赤司は私の進学先を知っていたようだ。
親から情報が渡ったのだろう。
陽泉高校がある先を思ったのか、幼馴染みは遠い目をして言った。

「秋田、か。遠いな」

どうしてそんな目をするの。
やめて。これ以上私の心を揺さぶらないで。
特別な感情なんてもう持っていたくない。
こんな感情忘れたいのに、それなのに赤司の動作一つ一つに私の心は過敏に動く。
他の人を好いていたらここまで苦しむことはなかっただろうに、私はどうして幼馴染みを好いてしまったのだろう。
どうして幼馴染みなの。
どうして、どうしてと繰り返し浮かぶ。
どうしようもないと分かっているのに。

でも、そうか。京都か。
やはり好都合だ。

「そうだね」

静かな空間に静かに呟いた。
本当に離れ離れになる。
好きを打ち消すには絶好の機会だ。
私の中に入ってくるのは、もうやめてほしかった。