novels | ナノ

06



暑かった夏ももうすぐ終わる。
進路先も決まった私は、本腰を入れて受験勉強に取り組んでいた。
受かりませんでした、なんて惨事はご免被りたい。
手早く食事を済ませた昼休み。
教室では集中しにくくて図書室へと場所を変えて勉学に勤しんでいた。
今ばかりは恋だなんだと現を抜かしている場合ではない。
合格する為にも、この想いに折り合いをつける為にも、私は赤司との接触を避けていた。

それが理由で赤い髪を見付ければ視線を逸らすようになっていた。
好きな人を目で追ってしまうというのは本当らしい。
話さずとも、会わずとも、姿を見付けては目で追ってしまう自分に気付いた。
未練たらたらじゃないか。
このままではいけないと、赤司を視界に入れるのも拒んで日々を送っていた。

「みょうじさんは赤司君に教えてもらったりするの?」

教室に戻ると、塾がどうの、あの先生の教え方はいまいちだのとクラスメイトが話していた。
クラス内の話題も今はめっきり受験の事だ。
私の姿を目敏く目にしたクラスメイトの一人が話しかけてきた。

「赤司君って教えるの上手そうだよねー」

「分かる分かる!そんな感じする!」

「で、みょうじさんどうなの?」

人の気も知らないで赤司赤司とうるさい。
彼の話を私に振られても困る。
実際、今まであまり答えられていないにも関わらず、どうして聞いてくるのだ。
何度言えば分かってくれるのだろう。
何度思い知らされればいいのだろう。
私は彼の事を存外知らないのだと。

想うのをやめようと、幼馴染を見る事も関わる事もやめた。
見つめるのは参考書だけで、そうする事で赤司を想う度に痛む心が少し和らいだ気がしていた。
自分の為に一心不乱になれる時間は嫌いじゃなかったし、自分の為に努力するのも、決して楽しいとは言えないが苦ではなかった。
自分で自分の為に事を成すというのは、不安はあるものの心が満たされていく感じがして、高校生活に思いを馳せるようになっていた。
まだ見ぬ自分の未来が、新しい世界が、楽しみだと思うようになっていたのだ。
それを励みに頑張っていた矢先に、赤司の二文字が私の邪魔をする。
好きという感情からは逃げられないのだと言われている気がして、また心が痛んだ。

「さぁ、どうだろう。私独学だから分からないや」

差し障りない答えを返して、作りたくもない笑顔を浮かべる事でその場をやり過ごした。
息を吸って、吐いて、ざわついた心を落ち着かせる。
もうやめると決めた。
この決意を変える気はない。
この恋は終わりにするのだと、私は決めたのだ。