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05



なかなか定まらずにいた進学先をやっと決めた。
秋田にある陽泉という学校だ。
都内でも関東でもない、地方の学校への進学を決意したのは、幼馴染みと完全に決別する為だ。
物理的に離れればこの想いも薄れるだろうと思ったのだ。
人生を左右する進路を恋愛感情で決めるのはいかがなものかと思ったが、今の私には赤司への想いが一番大事な事で、重要な事だった。
恋とは恐ろしいものである。
受験よりも色恋沙汰の方が人生を左右するのではないかと真剣に思った。

「なまえがいなくなると静かになるわね」

秋田の学校を受験したいと両親に打ち明けた時、都内近郊ではいけないのか、せめて関東内にしなさいと反対された。
今から一人で生活する術を身に付けておきたいし、どこまで一人で出来るのか試したいのだと必死に説得して頷いてもらった。
ここから秋田は距離がありすぎる。
一人暮らしは必然だった。
それも両親が心配する一つだったのだろう。
金銭的な問題は私にはどうする事も出来ないし、世話になるしかないのでそこは申し訳なく思う。
お前の人生だ、お前の思った通りにやってみなさいと言ってくれた父には感謝してもし足りない。
勿論、それに同意してくれた母にも感謝している。
恵まれていると、受験を通じて実感した。

「年末には帰ってくるから賑やかになるよー?」

「騒がしいの間違いでしょ?」

しばしの別れに寂しさを感じさせないようにちゃかした会話を母とする。
私に出来る事なんてこれくらいだ。
あとは最後の難関、合格する事だけ。
受からない事には何も始まらない。
恩義に報いる為にも精一杯やろうと決めた。

好きだという気持ちからただ逃げているだけかもしれない。
けれど相手の気持ちは明白で、この想いを伝えた事で今の関係を壊すくらいなら私は逃げようと思った。
気まずくなるのはご免だし、気遣われるのもご免だ。
三年もあればこの想いともけりをつけられるだろう。
赤司の全てから離れる事を、決めたのだった。