novels | ナノ

02



幼馴染みというからには勿論住まいが近い。
そう言うと羨ましいという声が聞こえてきそうだが、顔を合わせる事はあまりない。
私は帰宅部、赤司はバスケ部。
登校時間も帰宅時間も大きく異なる。
遭遇する率が極めて低いのはお分かりいただけただろうか。

「聞いてるのか、なまえ」

今日はどうしたというのだろう。
私の隣を重そうなスポーツバッグとこれまた重そうなスーパーの袋をぶらさげて歩くのは幼馴染み様である。
母親に牛乳切らしたから買ってきてと半ば強制的に出された使いの帰りに、部活帰りの赤司とばったり出くわした。
普段全く会わないというのに、どうして今日こうなるのか。
夜遅い時間に薄着で外に出るなだとか延々説教じみた事を言われ続け、危ないから送ると言って引かない彼と帰路を共にする事数分。
会う機会がないだけで、話さない訳でもないし仲が悪い訳でもない。
寧ろ仲は良い方だ。家族として、だが。
こうして心配してくれるのは嬉しいが、異性として心配されている訳ではないのでとても複雑だ。
嬉しいより、切ない。

「聞いてるよ。文句なら私じゃなくてお母さんに言って。言って来いって言ったのお母さんなんだから」

「せめて薄着で出るな」

「はいはーい」

まるで心配性なお兄ちゃんだ。
自分の感想にハハッと空笑い。
笑えない。
赤司に兄を求めている訳じゃない。

早く家に着け。
胸中で繰り返し願った。
そう遠くない距離がとても長く感じる。
我が家が見えてきた時の安心感は言葉に出来ないものだった。

「荷物持ってくれてありがと。助かっちゃった」

「なんて事はない。おばさんによろしく伝えてくれ」

おやすみと言って背中を向けた彼に私もおやすみと返して見送った。
小さく息を吐く。
報われない想いは私の心を蝕んでいく。
嬉しいが苦しいに一変した。
仲が悪い訳ではないから、辛い。
行き場のない想いをどうしたらいいのか、私には分からなかった。
いっその事仲が悪ければいいのにと思ったが、想いを抱いた今、それも辛いのだと気付かされた。