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01



幼馴染みなんて、皆が思う程いいものでもない。
そんなしょっちゅう話す訳でもないし、ほんの少しだけ、本当に少しだけ一緒にいる時間が多いだけだ。
憧れを抱くような、これといって特別な関係ではない。
それでも他の人より過ごした時間は長く、故に私は今厄介な感情に支配されつつある。

そう、好きなのだ。
私は幼馴染みに恋をしている。

いつから好きだったのかなんて分からない。気が付いたら好きだった。
何がどうしてこうなったのか。
幼馴染みに惚れました、なんてベタな展開になろうとは、全く思っていなかった。

「みょうじさんって、あの赤司君と幼馴染みなんでしょ?仲良く出来ていいなぁ」

うっとりとしながらクラスメイトが言う。
そんなにこの肩書きが欲しいならくれてやりたい。
私は幼馴染みなんて関係望んでいなかった。

赤司征十郎。
学年トップの学力を持ち、バスケットボール部主将で運動神経もいい。
おまけに思わず見蕩れてしまう端正な顔立ち。
私が想いを寄せている幼馴染みである。

こうして並べてみて分かる通り、言う事なしな赤司は女子生徒に人気だ。
人気があるにも関わらず彼の周りがそこまで騒がしくならないのは、それが彼だからとしか言いようがない。
赤司には容易に近寄れないオーラというか、雰囲気がある。
お近付きになりたい子達がこぞって私に言ってくる台詞はもう聞き飽きた。
幼馴染みの何がいいのか私にはサッパリ分からない。
皆と何も変わらない。
違う事といえば名前で呼び合ってるくらいだ。
昔からの呼び方を変えるなんて無理だし面倒だし、流れでお互いそのままなだけだ。
幼馴染みは幼馴染みで、それ以上でも以下でもない。
こっちがどんなに想っても、赤司は家族を相手にするような感情しか持ち合わせていないと知っている。
どんなに願っても恋人にはなれない。
告白する前から失恋だと分かりきっていた。

「そう?幼馴染みなんて、たいした関係じゃないよ?」

なんて不毛な想いなんだろう。
もっと普通な出逢い方をしたかった。
そうすれば家族ではなくて、一人の女の子として見てもらえたのかもしれないのに。

幼馴染みなんて関係望んでいなかった。
赤司の過去は知ってても未来を知る事はない。
こんな関係が、私は嫌いだ。
彼の隣にいるのは私でありたいのに、叶わないのだと思い知らされるこんな関係なんて、嫌いだ。