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くちびる



黒子のバスケ、宮地


宮地と付き合い始めてから半年。
未だにお互い名字呼び。
付き合ったからって特別呼び方を変えるなんて事はお互いにしなかったし、拘りも別になかった。
周囲と同じ呼び方だろうが何だろうが、宮地の声で呼ばれるだけで甘く響く。
重要なのは、宮地に呼ばれるという事。
呼び方以外にも恋人らしいと思われる事は特にしていない。
友人には変なのとか、ドライだねって言われるけど、無理に先に進もうとは思わない。
私達らしく、ゆっくりと歩んで少しずつ恋人らしくなっていけばいい。
そう思ってた私達は、昨日キスをした。
初めてのキスだった。
ただ唇を合わせただけの軽いキス。
それでも強く印象に残った。
偶然重なった手。
ふいに詰められた距離。
止まった空気。
見つめる蜂蜜の瞳。
そして合わさる唇。
全てよく記憶している。
平然を装う宮地の耳が赤かったのも、偶然重なった手を離したくなくてきゅって握ったら握り返してもらえたのも、全部全部覚えてる。
初めての恋人らしいスキンシップが、初めてのキス。
印象に残らない訳がない。
唇から消えてくれない感触。
昨日の事なのに今日あった事のように熱に浮かされている。
気付いたら宮地の唇を目で追っていて、我に返ってはまた宮地の唇を凝視する。
欲求不満みたいではしたない。
いつまでも唇を見続けるのも不審だ。
早く唇の感触が消えてほしくて、自分の唇を指でなぞった。

「みょうじ、朝から見すぎ」

昼休みにとうとう宮地から突っ込まれた。
まぁ事あるごとに見てたら気付きますよね。
自分でもどうしてこんなに気になるのか分からない。
初めてだから?
初めてだとこんなにそわそわして落ち着かないものなの?
恥ずかしくなって顔を俯かせた。
宮地はけろっとしていて対照的。
気にしているのは私だけらしい。

「もしかして、気に入ったのか?」

冗談めかして言う宮地に首を傾げる。
気に入ったから私はこんなに気になるの?
なら、もっとキスをすれば満足するの?
仮にそうだとして、私は宮地に何て言えばいいのだろう。
気に入ったからもっとキスしてって言えばいいの?
それこそ、はしたない。

「よく分かんない。けど、無性に気になるの」

分からないまま答えるよりもいいだろうと、思ったままを口にした。
素直に言ったのに、宮地はぱちぱちと瞬きを繰り返すだけで何も言わない。
顔だけがほんのりと赤かった。
照れてる?宮地が?なんで?

「あのさ、」

言いながら宮地が腕を伸ばしてくる。
辿り着いた先は私の唇。
ごつごつとした大きな手を頬に添えて、太い指が私の唇を這う。
驚いて宮地を見ると、さっきより顔が赤い。
明らかに照れている。
彼らしくない行動に私も照れて硬直した。
こんな事、今までされた事がない。
ドキドキという音で心臓が押し潰されそう。
昨日から初めての事だらけだ。

「それって、したいって事なんじゃねーの?」

そういう事なの?
やっぱりもっと沢山キスしないと治まらないの?
私は宮地とキスをしたいと思ってるから、こんなにも唇が気になるの?
それが宮地にも分かるくらい態度に出ていたんだろうか。
今でも本当にそうなのか、よく分からない。
もしそうなのだとしたら恥ずかしい。
宮地は顔を赤くしたまま私の返答を待っている。
絶対私の顔も赤い。
きっと宮地より赤い。

「そう…なのかな」

「してみりゃ分かんだろ」

徐々に寄せられる顔。
宮地の顔が近い。
思わずきゅっと目を閉じた。
ちゅっと鳴るリップ音と共に降りてくる宮地の熱に蕩けそう。
昨日と同じ、ただ軽く唇を合わせただけ。
それだけだけど、充分好きが伝わってきた。
宮地からの好きにとろんと目が潤む。
昨日からやたらと唇が気になった理由、分かったかもしれない。

「ね、宮地」

「あ?なんか分かったかよ」

「私、好き…かも」

至近距離にある宮地の顔を見上げた。
相変わらず赤い顔をした宮地が嬉しそうに笑った。
ぎゅっと抱き締められて私と宮地の距離はゼロ。
ドキドキと心臓が跳ねて恥ずかしいけど、この腕の中が心地いい。

「かも、じゃねーだろ。好きなんだよ」

再びキスを受け止めながら、いつになったら慣れるんだろうって考えた。
なんだかいつまでも慣れる気がしなくて、夢心地なまま何度もキスを交わした。

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お題提供:10mm.「くちびる」

リクエスト内容は、宮地で甘いお話。
さえか様リクエストありがとうございました。