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あいあいかさ



黒子のバスケ、赤司


授業は全て終わった。
部活には入っていないので、授業が終わればすぐに帰れる。
学校にいつまでも居座る理由はないし、必要もないので早く帰りたい。
しかし私の帰路を邪魔するものがある。
雨だ。
今朝の天気予報では、今日雨が降るとは言っていなかったはずなので傘なんて持ってきていない。
置き傘もない。
折りたたみ式なんて荷物になって邪魔なので持ち歩かない私は、帰る事が出来ずに困惑していた。
どうせ通り雨だろうから暫く待てばすぐに止むと思って教室で待機していたのだが、日が暮れた今も雨は止む事なく降り続けている。
雨に濡れた窓から外を眺めて溜息を吐いた。
ちらりと時計を見ると時刻は19時。
親はまだ仕事中で家にいない。
濡れて帰るしかないと決心して教室を出た。

昇降口で靴を履き替えると、教室にいた時よりも雨音が大きく聞こえる。
そこそこ強い雨の勢いにたじろぐが、このままでは学校で一夜を明かす事になってしまう。
少しでも守ろうと、鞄を胸にしっかりと抱いて駆け出そうと一歩踏み出した。

「みょうじ?」

外に出る寸前で呼びかけられて振り向くと、私を呼んだ主はクラスメイトの赤司だった。
まさかこんなに遅い時間に会えるとは思わず、ラッキーと胸中で笑む。
なんたって彼はクラスメイトで私の好きな人。
会えれば嬉しいに決まってる。

「こんな時間まで残っていたのか」

「うん、ちょっと困ってて」

苦笑しながら答えると、ちらりと外を見た赤司があぁって呟いた。
どうやら雨に困っていると分かったようだ。
その雨のおかげで赤司君に会えた上に、こうして話せているんだから雨もなかなかいい仕事をするじゃないかと、そう思ってしまう私は現金だろうか。

「赤司君こそ、こんなに遅くまでどうしたの?」

「部活だよ」

こんな時間まで部活とは、恐れ入った。
熱心なんだなって思って、また赤司を好きになる。
どんな事でも好きに繋がるんだから、恋って凄い。

「遅くまでお疲れ様!結構雨凄いから気をつけてね」

話せるのは嬉しいし、出来る事ならもっと話していたい。
けれど部活終わりの赤司は疲れているだろうし、早く帰って休みたいはずだ。
私の我が侭で赤司の時間を割いてはいけないと、名残惜しさを飲んでじゃあまた明日と再び外へと足を進めた。

「待て」

しかし再度呼び止められてまた振り返った。
まさか呼び止められるなんて思わず、驚いたのが少し顔に出たかもしれない。
何が理由であれ、少しでも一緒にいられるのはやはり嬉しいので、何回呼び止められても億劫に思う事はなく寧ろ嬉しい。

「生憎傘は一本しかないから貸す事は出来ないが、よかったら入っていくといい」

まさかのお言葉に目をぱちぱちと瞬かせた。
さっきからまさか続きだ。
嬉しいまさかなので心は躍るばかりだが、そこまで世話をかける訳にはいかない。
濡れずに帰れるのも魅力的だが、ぶんぶんと首を横に振って丁重にお断りした。
一緒にいられる願ってもないチャンスだが、さすがに悪い。

「いいよいいよ、私は大丈夫だから赤司君ちゃんと使って?」

「この雨の中濡れて帰る気か?風邪を引くぞ?」

「元気が取り柄ですから!平気平気!」

「…俺と帰るのはそんなに嫌かい?」

苦笑しながら言われては断りきれず、とんでもないです!と声を張り上げると、声に驚いたのか数秒きょとんとして私を見ていた赤司がくつくつと笑った。
本心だからこそ恥ずかしくなって顔に熱が集まる私に、どうぞと言って傘を開いて招き入れてくれた赤司は本当に格好良かった。
お邪魔しますと一言添えて同じ傘に入ると、思ったよりも近い距離にどきどきする。
こんなに近付く事になるとは思わなかった。
何か話していないと心臓の音が聞こえてしまいそうな気がして、とりとめない話を延々とした。
なにより、話していないと緊張に押し負けそうだった。
しかし何を話しても赤司は相槌を打つばかり。

「うるさかったかな。ごめんね?」

迷惑だったかと赤司の顔を覗き込んで様子を伺った。
自分にいっぱいいっぱいになりすぎて、赤司の事を考えていなかった。
自分勝手だったと反省して落ち込む。
好きな人相手に空回ってばかりで情けない。

「いや、むしろもっと聞いていたい」

「え?」

心の中で言われた台詞を繰り返す。
やっと言われた意味を理解すると、嬉しさと恥ずかしさに耐えられなくて顔を俯かせた。
びっくりしすぎて一瞬何を言われているのか分からなかった。

「みょうじは知ってるか?」

何の話だろうと俯かせた顔を上げた。
初めて赤司から話題を振られてそれだけで嬉しいので、どんな話でも構わないのが本音だが。

「傘の中は声が一番綺麗に聞こえるらしい」

「へぇ、赤司君物知りだねー!」

知識の広さにさすがだなと感心していると、だからと言葉を続けながら私を見る赤司にどきっとまた胸が高鳴る。
胸の鼓動は増すばかりで、一向に落ち着いてはくれない。
周りが見えない。
赤司しか、見えない。

「だから、もっと聞かせてくれ」

言いながら微笑む赤司に、私は二度目の恋に落ちた。
どうしてこんなに格好良いんだろう。
赤司も私を好きになってくれればいいのにと思いながら話し続けた。
赤司は変わらず相槌を打つだけだったけど、それでも構わなかった。
まるで恋人のような二人の時間を過ごせただけで幸せだった。
家に着くまでは雨よどうか止んでくれるな。
綺麗だと言ってくれた声を大好きな人に届けたいから。
だから、

雨、雨、降れ、降れ。
もっと降れ。

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リクエスト内容は、赤司と両片想いで相合傘でした。
まなみ様、ありがとうございました。