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どうぞ、おやすみなさい



黒子のバスケ、赤司


授業の合間にある休み時間に突然現れた赤司は、にっこりと笑顔を浮かべてこう言った。

「今日僕の家においで」

おいで、と優しく言う割には断定的に聞こえる言い方と、にっこりと顔に浮かべた笑顔がまた有無を言わせない。
誰が否と言えるのだろうか。
彼女の私だって言えない。
ひくつく口端を無理矢理上げて笑顔を返した。
元々月に一回のペースで赤司の家にお邪魔している。
主に食事面で生活習慣が不安な赤司と付き合う事になってから恒例となったお宅訪問だった。
それが今日になっただけなので別段構わないが、赤司の笑顔には裏がある気がしてびくびくとしながら夜を待った。

部活のある赤司と教室で本でも読んで時間を潰して一緒に帰る。
夕飯を食べて、お風呂に入って、後は寝るだけ。
心配していた事は何もなく、普段となんら変わらない一日を終えてほっとした。
入浴した事で濡れた髪を借りたバスタオルで拭きながら席を立った。
いきなり誘われたので自分の寝間着など用意している訳もなく、バスタオル以外にもTシャツも借りている。
突出して背が高い訳ではないが私よりかは背が高いし、スポーツ選手だけあって見た目線の細い体もしっかり筋肉がついている。
そんな赤司の服は私には少し大きくてTシャツ一枚着ただけでまるでワンピースのようだが、着られるのなら何でもよかったし、毎度の事なので大して気にもしない。
隠れる所が隠れていればそれでいい。

「私そろそろ寝るよ。おやすみ、征十郎」

立ち上がって軽く挨拶を済ませると、髪を拭きながら自分にあてがわれた部屋へと足を向けた。
あてがわれた、というか、いつも勝手に使っているので今でも勝手に使っているだけなのだが。
本を読んでいる赤司はきっとキリのいい所まで読み切ってしまうだろうから、寝るにはまだ時間がかかるだろうと思って先に寝ようと部屋まで来た。
だがしかし、夜の挨拶に対して分かったと言いながら本を閉じると私の後を赤司がついてくる。
赤司の部屋は隣だというのに、どうして私の後をついてきた挙句自分の部屋に戻らず同じ部屋に入ってくるのか。
まぁいいかと湿ったバスタオルを椅子の背凭れにかけてベッドに潜り込んだ。
私は寝たい。眠いんだ。
私に害がなければ同じ部屋にいようが傍にいようがどうだっていい。

目を閉じてもう一度おやすみと声をかけると、すぐに眠気はやってきてまどろみ始めた。
瞬間、ぎしっとベッドの鳴る音と近くに感じる温もりに、現実に引き戻される事となった。
少しの重みも加わって、なんだろうと視線を向けるとすぐそこに赤司の顔。近い。

「…何やってんの?」

「キスしようとしてる」

「いや、何しようとしてくれてんの」

悪びれもせずにけろりと言ってのける赤司は尚も顔を寄せてくる。
焦って手を伸ばしストップをかけた。
こうして手で遮ればしたい事も出来まい。

「私、おやすみって言ったよね?寝たいんですけど」

「だからなまえは寝てていい」

遮った手を難なくどかされて呆気なく唇を奪われた。
熱を孕んでいる口付けに、これはやばいと頭の中で警告音が鳴る。
今までの経験上、このままでは寝かせてもらえない。
寝てていいとか、阿呆かこの人は。
こんな事をされて寝ていられる奴がいる訳ないだろうに。
睡眠を確保する為に必死で手足をばたつかせるが、抵抗も虚しく先程口を塞いできた赤司の唇が私の首元を這う。
こんな時は男女の力の差が心の底から憎い。
ちりっとした甘い痛みに思わず漏らした声に、組み敷いて私を見下ろす赤司は大変ご満悦なようだが。

「ちょっと!征十郎!私は寝たいんだってばっ」

キッと睨むと綺麗な笑顔を浮かべた赤司の顔が、休み時間に見た赤司の顔と重なって見えた。
もしかして、誘った時からこうする事を考えていたというのか。
だとしたら私は嵌められた訳だ。
彼氏といえど腹の立つ。
私の怒りなんて赤司には何の問題もないようで、しっとりとした唇が私の唇の輪郭をなぞっては食んでいく。

「だから、なまえは寝てていいと言ったろう」

そしてまた綺麗な笑顔で赤司は続けて言った。

「寝れるものならね」

熱を含んで野性的に笑む赤司の笑顔が一段と綺麗に見える私も、きっと熱に浮かされている。
これは抗っても意味がないようだ。
明日が休日なのがせめてもの救いだろうか。

寝る事を諦めて大人しくベッドに体を沈ませた。
あれだけ厳しい練習をこなしているにも関わらず、この体力は一体どこからくるのだろうと赤司の熱を感じながらぼんやりと思った。
その体躯に包まれて寝る事になるんだろうなとも。
それが嫌じゃない私は、ずっとこの熱に浮かされていくのだろう。

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リクエスト内容は、赤司がお相手でした。
Luca様、リクエストありがとうございました。