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ストレス解消法



黒子のバスケ、黄瀬


部活を終えてきたのであろう私の彼氏がいきなり家に来たと思ったら、私をぎゅっと抱き締めたまま離してくれない。
後ろから抱き締められた状態ではぁと何度も溜息を吐かれると耳元に息が当たって少しくすぐったい。
何かあったのかと心配になってそのままにさせてから数分が経ち、やっと喋ったと思ったら彼が発した言葉は“落ち着く”。
人を拘束しておいて何を言うかと思えばそれか。
そう思っても何も言わずにされるがままになっていた。
多分彼は疲れていると分かったからだ。
私でお役に立てるのなら好きなようにさせてあげましょう。
それが彼女である私の役目だとも思っている。

抱き締めたままの私の首元に顔を埋める金髪を撫でた。
気持ちよかったのかぐりぐりと頭を押し付けてくる彼にくすりと笑みを漏らして撫で続けてやる。
甘えん坊だな、私の彼氏は。

「やっぱなまえっちとこうしてると落ち着くっス」

「それはよかったです」

彼が少しでも元気になるのなら私も嬉しい。
バスケと仕事を両立している彼が少なからず心配なのだから、甘えん坊だと思いながらもこうして甘やかしてしまうのは仕方がないと思う。
有名人な彼とは人目を気にしてあまりスキンシップも多くない。
こうやって彼を近くに感じられるのは私だって嬉しいのだ。

「涼太ってこうするの好きだよね」

疲れていると分かったのは、今日が初めての事ではないからだ。
今まで数度繰り返されてきた行為で、何度もされれば顔色の違いも分かるというもの。
最初はただ甘えられていると思っていたのだが、理由を知ってからはされるがままに抱き締められているという訳だ。
最近は以前にも増して引っ付かれる回数が多くなっている気もするが、それだけ疲れているのだろうと思う事にした。
私も大概涼太には甘い。

「こうやってハグすると一日の中で受けたストレスの三分の一は解消されるらしいんスよ。知ってからはなまえっちに抱き付こうと思って」

こう言ったら何だが、勉強が苦手で雑学には疎い彼がよく知っているなと披露された知識に驚いた。
読む本は漫画ばかりの彼が本で身に付けたとは考えにくい。
いや、漫画も侮れないか。
結構知識が身に付くものだ。
ではソースは漫画だろうか。

「それ何の漫画で知ったの?」

「漫画じゃないっスよ!黒子っちに教えてもらったんス!」

ひどいっス!ときゃんきゃん喚く涼太を無視して本好きな黒子を思い浮かべた。
知識豊富な彼が言うなら間違いないのだろう。
未だに喚き散らして煩い涼太の頭を一撫でしてごめんねと謝れば、次第に大人しくなり気持ちよさそうにする姿に大型犬を重ねないでもないが、これで落ち着いてくれるのなら楽でいい。

「なら、涼太のストレス解消法は私だね」

なんだかんだで嬉しい事だ。
涼太の疲れを少しでも取り除けるのなら、いくらでも抱き付かれようではないか。

「はいっス!」

嬉しかったのか元気な返事と共にぎゅうっと抱き締められた。
うん、やっぱり元気な彼が一番だ。
涼太が元気なら私も元気。

「だからね、これからもなまえっちをぎゅーってするんスよー!」

「はいはい」

されてあげましょう。
私の元気の源も、結局のところ涼太なんだから。

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頂いたリクエスト内容は、相手不問で甘い話。
リクエストくださったnana様、ありがとうございました。

補足ですが、好きな人とハグをすると、ドーパミン、セロトニン、オキシトシンが分泌されてストレスが軽減するそうです。
ドーパミン→快感、セロトニン→安心、オキシトシン→愛情、だそうです。