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真っ白な世界だからこそ



黒子のバスケ、赤司


眠い目を擦って、部屋のカーテンを開けるといつもと違う風景だった。

目に飛び込んだのは、ずっと遠くまで広がる白。

昨日は今年一番の寒さで、夜には雪が降るかもしれないってニュースで言っていたけれど、まさか積もるなんて!

いくつになっても、一面の銀世界には心がわくわくする。

彼との待ち合わせまで、まだ時間はあるけれど。

いつもなら寒くて寒くて布団の中に閉じ籠るのに。

部屋を飛び出し、朝の支度を手際よく済ませ、いつもより30分も早く玄関の扉を開けた。

ようやく陽が上り始めた朝7時。

まだ誰も汚していない白い地面を踏み締める快感ったらない。

雪が積もっているだけで、見慣れた風景がきらきら輝いて見えるのはどうしてなんだろう。

ちょっと雪に触ってみたり、写真を撮ったりしていたら、待ち合わせ場所に着いた頃には待ち合わせ20分前。

まだ時間あるなぁ…。

「そうだ!」

手袋をはめた手で雪を集めてぎゅっと丸めた。

大きさが違う二つの雪玉をくっつければ、小さな小さな雪だるま。

小枝で手を作ってあげて、小石で表情をつけた。

ふと、素敵なことを思い付いて鞄の中から赤ペンを取り出した。

完成した雪だるまをベンチの上に置いて満足感に浸っていると、遠くから白い息を吐きながら歩いてくる彼の姿が見えた。

真っ白な風景の中に彼の赤い髪が鮮やかで、しゃんと背筋を伸ばして歩く姿はとても綺麗で、目を離すことができなかった。

「おはよう、なまえ。今日は早いね。」

「征くん、おはよ!雪積もってたから何か嬉しくなっちゃって…。」

「確かに。積もるなんて珍しいものだからね。…ところで今日は視線がやけに熱かったようだけど?」

さすが。その瞳には私が見とれてしまっているところがしっかり映っていたみたい。

「…白い雪景色に、征くんの赤い髪が映えて素敵だなと思ったの。」

「元々目立つ色だからね。…まぁなまえになら言われて悪い気はしない。」

口許がほのかに緩む控え目な笑顔に、心がほっと暖かくなった。

「ところで、なまえがこの雪だるまを作ったんだろう?」

征ちゃんはベンチの雪だるまの視線にも気付いて、また口許を綻ばせた。

「うん!…でもどうしてわかったの?」

「片目が赤い雪だるまなんて、なまえしか作らないよ。」

気付いてくれた。

雪だるまの右目を赤に色付けたこと。

だって、思い浮かぶのは征くんだし、喜んでもらいたかったから。

隣にいる征くんが自分の携帯を取り出すと、シャッター音が聞こえた。

「…写真撮ったの?」

「なまえが僕のことを考えて作ったものだからね。溶けてなくなってしまうけれど。」

征くんはまた笑顔を見せるけど、今度は彼の伝えたい気持ちが違っている。

「…そんなつもりじゃないし!」

少し大人びた表情で笑う時は、私をからかっている。

私の反応を見て、クスクス笑っている様子を見るとご満悦みたい。

とにかく、朝から喜びをお届けできて良かった。

「それじゃあ、そろそろ行こうか。」

「うん。…あ、待って!」

私は雪で濡れてしまった手袋を外して、鞄の中に入れた。

すると征くんが私の手をとって、眉を寄せた。

「…冷たくなってしまっているな。」

雪にずっと触っていた私の手は、手袋越しでもだいぶ冷えてしまっていた。

征くんは自分の右手にはめていた手袋を私の右手に被せた。

「征くん、いいの?」

「あぁ。片手は繋げばいいだろう?」

「…ありがとう。」

当たり前のようにさらりと口にしたけど、私未だに征くんと手を繋ぐのドキドキするって知っててでしょ?

また征くんが私の手に触れた。

すると、私の手の甲を上にして、そっと持ち上げた。

「どうかし…」

手の甲に一瞬触れた征くんの唇の温もりが、私の言葉を止めた。

手の熱は一気に身体中に広がって、顔まで熱くなってきた。

「白い雪景色に、なまえの真っ赤な顔が映えているよ。」

「もう!からかわないで!」

「からかっているわけじゃないよ。…可愛いと思っただけだ。」

そう言うと、征くんは私の手を包み込むように握ってゆっくりと歩き出した。

さっきの言葉は本当だ。

だって、横顔から覗く白い頬にほんのり赤色が挿しているから。

真っ白な世界だからこそ、二人の足跡がくっきりと残る。

真っ白な世界だからこそ、いつもより鮮やかな貴方の色。

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「*chelish*」nana様より7654hitのキリリク頂きました。
リクエストは、赤司で雪にちなんだ甘いお話。
ありがとうございました。