Chocolate panic
黒子のバスケ、赤司
どうしたものか…
大きく溜息を吐く。
吐く息は白く、京都の気温がまだ寒いことを示す。
もうすぐ春が来るのは分かっているが、まだ1月寄りのこの時期は寒い。
最も、部活後のこの時間は寒いに決まってるわけだけど。
「あら?なまえちゃんこんな所に居たの?征ちゃん探してたわよ?」
「そっ、そうですか…」
体育館裏に隠れていた私を玲央先輩にあっさりと見つかってしまった。
しかし、私は今ここから離れたくない。
征十郎に合わせる顔がない。
「征十郎に先に帰るように伝えてもらえませんか?」
「あの征ちゃんが素直に言うことを聞くと思う?」
「無理だと思います」
「でしょ?ほら、早く行ってあげなさい!」
先輩は私をグイグイ押し、今会いたくない征十郎の前に差し出してしまう。
綺麗な笑みを浮かべ、手を振りながら去って行く姿に怨みが募った。
「なまえ、どうしてあんな所に居たんだ?探したよ。」
「ごめん…」
征十郎の左手が私の右手を握る。
そのまま指を絡められてしまう。
まるで「逃がさない」と言っているように。
「ところでなまえ、今日は世間一般的にはバレンタインデーらしい。女性が意中の男性にチョコレートをあげる、それが日本での常識だ。知らないはずはないよね?」
征十郎の綺麗な微笑みが見れない。
ふいっと目をそらせば、征十郎の長い指が私の顎を軽く掴んだ。
「なまえは僕に何を隠しているんだい?」
赤色と橙色のオッドアイが私を射抜く。
この人には逆らえない、それは分かっている。
「別に、隠してなんか…」
「そうか。ところで、僕に渡す物はないのか?」
誤魔化すのは、無理かも…
じんわりと涙が浮かんでくる。
私の目を見つめる征十郎の表情が和らぎ、それに安心するかのようにぼろぼろ涙が零れた。
「ごっ、ごめんね、征十郎…」
征十郎の唇が私の唇に降りる。
それから私の涙もぺろりと舐め、悪戯っ子のように頬を緩めた。
「事と次第によっては許してあげる」
「ありがとう…っ!」
ぎゅうと征十郎に抱きつけば、優しく抱き締め返してくれる。
その温もりに安心した私は口を開いた。
「征十郎にあげるチョコの包装と他の部員達にあげる包装が一緒だったの!それで、その…」
どうか、怒りませんように!
ぎゅっときつく目を瞑る。
征十郎の胸に顔を埋めたまま私は続きを説明した。
「間違って小太郎先輩にあげちゃって…気付いた時には…もう…」
「小太郎が僕のチョコを食べてしまったんだね?」
「…はい」
短い沈黙の後、私の頭を征十郎が優しく撫でた。
「今日は僕の家に泊まりにおいで」
その言葉の意図が分からなくて思わず首を傾げる。
そんな私の手を引き、征十郎は歩き出した。
「これから手作りの菓子を用意してくれるなら許してあげる、それでどうだ?」
勿論、私は喜んで首を縦に振った。
「うん!頑張って作るね!」
「ああ、楽しみにしているよ」
Chocolate panic
彼はどんな時でも優しいです
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「うさぎの絵本」Luca様より、素敵な贈り物を頂きました。
2014年バレンタイン。