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最高の幕開け



黒子のバスケ、黒子


高校生になったということで、友達と初めて一緒に年越し初詣に来た。

少しだけ大人になったような気分で、新年を迎える賑やかな雰囲気を楽しんでいた。

すると人混みの中に一瞬見えた姿に、とくんと胸が高鳴った。

え?嘘でしょ?

まさかこんな偶然があるなんて。

もう一回確認してみたら、そこにはやっぱり彼がいた。

「なまえ、どうしたの?ボーッとして。」

「…黒子くんがいる。」

「え?どこどこ?」

友達二人が私が見ていた方向を探しているけど、姿がわからないみたい。

確かに元々は影が薄いと言われている彼を、この人混みの中で見つけるのは至難の技かもしれない。

私にはまるで特別なオーラに包まれているみたいに、はっきり見えるんだけど。

「あ、本当だ。…なまえ、声かけてきたら?」

「え、でも…。誰か待ってるかもしれないし…。」

「それでも新年の挨拶くらいしてきなよ!話したいでしょ?」

それは、もちろん。

だってこんなチャンス滅多にない。

友達の後押しを受けて、私は黒子くんの所へと向かった。

「く…黒子くん!」

名前を呼ぶだけなのに、心臓の音がやけにうるさく聞こえた。

彼は私の声に気付くと、少し驚いたように大きな目を見開いた。

「みょうじさん…。明けましておめでとうございます。初詣ですか?」

「うん。黒子くんも?」

「はい。バスケ部の皆さんと来たんですが、この人混みではぐれてしまって…。」

あぁ、だからか。

立ち尽くして少し寂しそうにも見えたのは。

「連絡とれないの?」

「今日に限って携帯を家に忘れてきてしまったんです。…みょうじさん、もし良ければ一緒に行きませんか?」

「…え!?」

突然のお誘いに、心の準備が出来ていなくて。

変な声出ちゃったし、絶対変な顔してるよ、私!

「このままここにいても会えないような気がします。火神くんがいるので、参道の方まで行ったら見えるかもしれませんし…。」

黒子くんと二人で初詣なんて、神様は何てチャンスをくれたんだろう。

でも友達待たせてるしな…。

思いを巡らせていると、鞄の中の携帯が震えた。

「もし黒子くんと行くことになったら、私たちのことは気にしないで!行け!」

「なまえ、頑張れ!」

遠くの方に見えたのはこちらを見つめて笑顔で拳を握る友達の姿。

今年の運、全部使いきってもいいから二人きりになりたい。

「私で良ければ…お願いします。」

二人で並んで歩けるなんて、想像すらしていなかった。

透き通る水色の髪に灯りが反射してきらきらしてる。

私の肩の位置より少し高い彼の肩に、意外と背が高いんだなって気付く。

凝視しないように、こっそり見てるつもりなのに、黒子くんは私の視線にすぐ気付く。

その度に浮かべる柔らかで儚げな笑顔に、胸がぎゅっとなる。

人がさっきよりも増えてきたみたいで、一瞬黒子くんの姿を見失ってしまった。

すぐに見つけると、咄嗟に服の裾を掴んでしまった。

黒子くんが目を丸くしていたので、我に返って急激に恥ずかしくなった。

「ご…ごめんね!つい…。」

すぐに手を離したけれど、顔に熱を帯びてきて、こんな顔見せられないと俯いた。

「いえ、大丈夫ですよ?…ちょっと混んできたので、失礼しますね。」

すると、黒子くんはそっと私が引っ込めていた手に触れて指先が包み込まれた。

これは夢?

私、好きな人と手を繋いでる。

白くて綺麗だと思っていた手は、意外にしっかりとしていてやっぱり男の子なんだと感じさせた。

さっきまで隣にいた彼はほんの少しだけ私の前を歩いていた。




無事に神前までたどり着き、二人並んでお参りをした。

神様に今日のことを感謝して、少し早めに目を開けて横目で隣に視線を移した。

黒子くんの目を閉じてまるで何かを強く願っているような姿に、つい見とれてしまった。

「すみません…待たせてしまいましたね。行きましょうか。」

お参りを済ませた私たちは、また人混みの中を今度はとても自然に手を繋いで歩いた。

すると、私は人混みの中に頭一つ飛び出した集団を見つけた。

その中には見知ったクラスメイトの顔もあった。

教えてしまえば二人きりのこの時間は終わってしまう。

でも、元々黒子くんはバスケ部の人たちと初詣に来ていた。

彼女でも何でもない私が独り占めしていいはずない。

「黒子くん!あれ、火神くんじゃない?バスケ部の人たちかな?」

寂しい気持ちを抑えて伝えると、黒子くんは何故か思ったほど驚いていない。

「…そうですね。戻らないといけませんね…。でも、みょうじさんはどうするんですか?」

「私は大丈夫だよ。家も近いし。黒子くん、ありがとう。…楽しかった。」

夢の時間に幕が下りる。

あのまま時間が止まってくれればよかったのに。

バスケ部の人たちを見つけたのに、黒子くんは私の手をぎゅっと握って離そうとしない。

「…黒子くん?」

名前を呼び掛けて様子を窺うと、黒子くんは睫毛を伏せて目線を下に落としている。

これ以上踏み込む勇気はなくて、黒子くんからの返事を私も視線を落として待っていた。

「…本当は少し前には見つけていたんです。」

聞こえてきた言葉に驚いて、思わず顔を上げた。

「え…?」

「はぐれたのは本当です。でもまさかみょうじさんに会えるなんて思わなくて…もう少し一緒にいたかったんです。」

黒子くんの綺麗な瞳には、しっかりと私が映っている。

繋がったままの手は、とても熱い。

…嘘じゃない。

予想もしなかった黒子くんの言葉が身体中に満ち溢れて、嬉しすぎて何も言葉が出なかった。

「すみません、勝手でしたね。…迷惑でしたか?」

黙りこんでしまった私に、黒子くんが間違った解釈をしてしまっている。

恐がらずに、自分の気持ちを伝えなくちゃ。

頑張れ、私。

「私も黒子くんともっと一緒にいたかったよ…。」

ようやく絞り出した声は少し掠れてしまって周りの音にかきけされてしまいそうだった。

それでも、ちゃんと黒子くんには届いていて、黒子くんはふわりと優しい笑顔をくれた。

「…みょうじさん、好きです。これからも一緒にいてくれませんか?」

白い肌が赤く染まっていて、手にさっきよりも強い力が込められている。

「…私も黒子くんが好きだよ。こちらこそ宜しくお願いします。」

想いを伝えた時に見せてくれた笑顔は、今まで見たことがない、まるで花が満開に咲いたような笑顔だった。


なんて幸せな新年の幕開けなの。

今年起こるはずだったいいことが、全部全部集められたみたい。

でも、大丈夫。

幸運がなくなっただけだから。

大好きな人と幸せをいっぱい作るから。

神様、本当にありがとう。

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「*cherish*」nana様より、フリリクに応えてくださり頂きました。
リクエストは、黒子と一緒に初詣。
お忙しい中、ありがとうございました。