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世界は君で溢れている



黒子のバスケ、伊月


冬休みが終わり私達は新学期を迎えた。
私達が高校2年生でいられる最後の3学期である。

「なまえ、見つけた!」

「俊?」

今日は新学期1日目なので、みんな午前中で帰宅できる。
ちなみに、バスケ部もオフ。

「もう、黙って先に帰るなよ。」

むうっと頬を膨らませる俊に思わず笑みが零れる。
すると、俊も膨れっ面から笑みに変わっていく。

「それで、どうして私を探してたの?」

「んー、今からデートしようと思ってさ!」

「デート?」

「そっ、デート。」

私の右手が俊の左手に包まれる。
そのまま俊の長い指に私の指が絡められていく。
所謂、恋人手繋ぎだ。

……特に予定もないし、別にいいか。

「うん、いいよ」

「じゃあ、決まりだな!」

俊は楽しそうに笑いながら私の手を引いて歩き出した。
少し前を歩く俊の後姿はなんだか懐かしく思えた。
きっと、昨年はIHやらWC等で忙しかったからかもしれない。

私はマネージャー、俊は選手。
どんなに毎日一緒に居ても、なんとなく心の距離を感じてしまう。

「あのさ」

俊が歩きながら話し出す。
私の方には振り向いてくれないけど。

「どうしたの?」

私が返事をしたが、俊は少し考える素振りを見せる。
それから僅かに私の方を振り向いて目を細めて笑った。

「やっぱりいいや、後でな。」

俊の不自然な行動に思わず首を傾げた。



あれから電車に乗り、それほど遠くない場所にある遊園地に私達は来ていた。
連れて来た張本人である俊は、私よりワクワクしていた。
そんなに遊園地に来たかったのだろうか。

「なまえ、どれ乗る?」

「そうだなぁ…じゃあコーヒーカップ!」

気分を盛り上げるのにコーヒーカップは最高だと思う。
目が回るけど。

「遊園地なんて久しぶりだなぁ」

「私も」

私も俊も普通に話しているけど、今コーヒーカップをぐるぐる回している。
他のカップに比べれば異常に回転してる気がした。

「次はおばけ屋敷に行こう!」

「えー、もう行くのー?」

「遊園地の醍醐味だからね!」

それからの私達は子供に戻ったみたいに遊園地を堪能していた。
コーヒーカップに再び乗ったり、おばけ屋敷に何回も入ったり、ジェットコースターに乗ってバカみたいにはしゃいだり。

今は2人でベンチに座って少しだけ休憩中だ。

……あれ?

そんな時だった。
私の視界に泣いている男の子の姿が映ったのは。

……迷子かなぁ?

「どうしたの?」

泣いている男の子に近付いて頭を撫でてみる。
しかし、男の子が泣き止むことがなかった。

……どうしよう、困ったなぁ。

どうやって泣き止むか考えている時、ふわりと男の子の体が宙を舞う。

「あはは!どう、高いだろ?」

「うっ、うんっ!」

男の子に俊が高い高いをする。
すると、男の子にも笑みが戻ってきた。

「どうして泣いてたんだ?」

「あのね、お母さんと逸れちゃったの、それに風船も失くしちゃって…」

男の子の言う風船は、ピエロの格好をした従業員が配っている物のことだとすぐに分かった。
それに、私も先程その風船を貰っているし。

「これ、お姉ちゃんからプレゼント。」

私が持っていた風船を男の子にあげれば「ありがとう」と嬉しそうに笑った。

その後は、俊と私と男の子の3人で手を繋いで母親を探した。
見つけた時には時刻は夜を回り、そろそろ帰る時間となっていた。

「今日は楽しかった!ありがとう、俊。」

「あのさ、まだ時間ある?」

私を引き止める俊の表情は凄く真剣な目をしていて、私はただ頷くことしかできなかった。
空が藍色に染められ、星の瞬きとネオンの輝きが街を飾る。
私はその姿を観覧車の中からじっと覗いていた。

「あっ、俊見て!人が小さくなっていく!」

「うん…」

ゆっくりと空に向かって登っていく観覧車。
私の向かい側に座る俊は、ぼーっと外を眺めていた。

「さっきの男の子、お母さん見つかって良かったね!それにしても、俊ってば子供慣れしてるよねぇ」

「うん…」

どう考えても俊はうわの空だった。
やがて、私も話すことをやめて外を眺めることにする。
観覧車はもうじき頂上へ達する所まで来ていた。

「なまえ」

名前を呼ばれ振り向けば、私の隣にカタンと音を立てて俊が座る。
じっと見つめてからその距離を縮めてきた。

「あっ、あの…しゅ…ん…?」

「月が綺麗だね」

俊が指差す方向には綺麗に輝きを魅せる月。

「本当、綺麗…」

「でも、意味はそれだけじゃないんだ」

私の頬が俊の掌に包まれる。
それからにっこりと綺麗に微笑んでから俊の唇が私の唇に重ねられた。


それは、観覧車が1番空に近付いた場所でのことでした…


「私、死んでもいい。」

唇を離してからそう言えば、俊が嬉しそうに笑う。
私もつられて笑った。

……ずっと一緒に居られますように。

地上に広がる幻想的な風景を見つめながらそう願った。
そして、この景色が幻想的に見えるのは隣に彼が居るからだと。



世界は君で溢れている

この世界が綺麗に見えるのは、貴方が綺麗だから。
貴方の優しさが私の幸せの糧となるの。

end
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「うさぎの絵本」Luca様より、8888hitキリリク頂きました。
リクエストは、伊月でバカップルな二人。